パブリック・リレーションズを徹底的に学ぶ
今回紹介する書籍は、『パブリック・リレーションズを創った男 業界1位エデルマンの経営の極意』。エデルマンの創業者ダン・エデルマンの生涯を振り返りながら、パブリック・リレーションズの萌芽期からデジタルが不可欠となった現代型の関係構築に至るまでの発展を解説しています。
本書を通じて、最初はモノを売るための直接的な活動だったパブリック・リレーションズが、のちに社会に問題提起を投げかけるものに変化したこと、そしてエデルマンのクライアントもデジタルや科学、医療、地域活動など多種多様な領域へと広がっていったことがわかります。
トップダウン式のコミュニケーションは過去のもの
12章では、エデルマンが2000年代から様々なキャンペーンの中核に据えてきた思想について触れています。それは、創業者ダンの息子リチャード・エデルマンが2004年に世に送り出した『Journal of Integrated Communications』誌の論文「The Relationship Imperative(必要不可欠な関係性)」で示された、パブリック・エンゲージメント(Public Engagement)の考え方です。「大きな景気後退、企業の不祥事、そして9.11は、パブリック・リレーションズ業務の全体的な役割に関するリチャードの見解を大きく変えた」といいます。
論文の中で彼は「ビジネスの将来は売上高ではなく、関係構築にかかっている」と書き、広告やマスコミ報道から一方的な情報を受け取るトップダウン式の企業コミュニケーションモデルは過去のものだと言い切りました。その上で企業に対し、コアの顧客層を特定し、双方向コミュニケーションルートを通じて彼らと関係を築くこと、さらに企業の理念を明確にし、信頼できる情報を最も確実に発信できる「対話のプロ」を企業内で育てることを勧めたのです。
13章では、その考え方を基に、エデルマンが世界で展開したキャンペーンを紹介。当時の社会的背景とキャンペーンの根底にあった問題意識、それを落とし込んだクリエイティブがまとめられています。
数々の成功例から感じ取れるのは、企業と顧客が強い関係性を構築していくには、その仕掛け人であるPRパーソンが、社会の動きに敏感でなければいけないということ。テクノロジーさえあれば“双方向性”は実現できるわけではないのだと気づかされます。しかし社会全体が激しい変化にさらされている現在、PRパーソンだけでなくマーケターにも、そうした視点も併せ持つことが求められているように思います。
デジタルを使いこなし、より長期的な視点で会社に資産をもたらす施策を実行していくために、本書を通じてパブリック・リレーションズへの理解を深めてみてはいかでしょうか。