オンライン・オフラインを融合したマーケティングを
DNPは印刷事業だけでなく、DMやチラシ、ポスター、カタログ制作などを手掛け、これまで企業のオフラインでのマーケティング活動をサポートしてきた。しかし、生活者がオンライン・オフラインを必要に応じて使い分け、消費行動が複雑化している昨今では、企業側もオンライン・オフラインを使い分けるマーケティングが必要となる。
そうした時代背景の中で、DNPでは2016年よりデジタルマーケティング専門の部門を創設。オンラインとオフラインをシームレスにつなぎ、企業が生活者に新たな体験価値を提供するためのハイブリッドマーケティングサービスを提供している。
「現在のマーケティング手法では、顧客体験を最適化させる手段が現在オンラインに寄りすぎています。本来はオンライン・オフラインを融合させ、上手に使い分け、お客さまにとってエモーショナルな体験価値を生み出せるのかを追求し、実行すべきです。そのために、DNPではハイブリッドマーケティングサービスを提供しています」(小路氏)
企業と生活者の考える価値にはギャップがある
企業は日々マーケティングプランを考え、施策を実行している。しかしその中には、残念ながら生活者に響かない施策もあるのではないだろうか。小路氏はその要因の1つとして「企業側がオンライン・オフラインを行き来する生活者のニーズをつかみきれず、双方の考える体験価値にギャップが生じていること」を挙げた。
DNPは、企業と消費者の体験価値のギャップを検証するため、アパレル業界に従事するマーケティング担当者と20〜50代の生活者を対象に、ECサイトの商品認知に関する調査を行った。
その結果、企業の半数以上は、商品認知のために、SNSへの露出が大事だと考える一方で、生活者の半数以上は実店舗内の展示を重視していることがわかった。また、実際の商品を見て利用シーンをイメージしやすくなるような情報が求められていることもわかった。
「このように企業と生活者とで、体験価値に対するギャップが生じているケースが多々あります。企業は生活者の声を正確に把握して、顧客の体験価値を提供していく必要があると考えます」(小路氏)
正確なカスタマージャーニーマップが描けない要因とは?
企業と生活者の間に、なぜこうしたギャップが生まれるのだろうか。その理由として、大きく2つのことが考えられる。
1つ目は、オンライン・オフラインを横断する生活者の消費行動の複雑化によって、企業側が正確なカスタマージャーニーマップを描けていないということ。2つ目は、オフライン・オンライン横断施策を実行するためのデータの利活用の環境が整っていない企業が多いということだ。
前者の要因として、マーケティング担当者が経験や主観でカスタマージャーニーマップを描いてしまい、実際の顧客の声や行動を把握できていないことが考えられる。また、顧客を同世代や同年代という属性で一括りにしてしまうという問題もありがちだ。
「DNPでは、ライフスタイルや購入履歴などから価値観に準じて生活者をクラスタリングするDNP独自の『価値観クラスター』というサービスを提供しています。実際にM1層(20代〜30代前半)の男性をクラスタリングした例では、同一年代・性別でも、オフラインメディアを重視するペルソナとオンラインメディアを重視するペルソナの2つに大別できるという結果が出ています」(小路氏)
このように、同一世代でも、オンライン・オフラインという切り口でターゲットのタイプは大きく変わってくる。マーケティングにおいては、さらにさまざまな視点で捉えていかないと、顧客を正確に把握することができないだろう。
カスタマージャーニーマップを生成するサービス
DNPでは、オンライン・オフラインを横断する消費者行動をデータ起点で把握し、カスタマージャーニーマップを作成するための2つのサービスを提供している。
1つ目は、Emotion Techと共同開発した「エモーショナルカスタマージャーニーマップ」。顧客ロイヤリティーをたった1つの質問でスコアリングするNPS(ネットプロモータスコア)を活用することで、カスタマージャーニーマップのタッチポイントにおいて、どこに生活者が抱える課題があるのかを数値化・視覚化する。
そして2つ目は、コレクシアと共同開発した「価値観カスタマージャーニーマップ」。生活者や顧客にネットアンケートでオンライン・オフライン双方での購買行動に関する質問を行い、一人ひとりのカスタマージャーニーマップを自動で生成するものだ。これらのサービスにより、多種多様な価値観を持つ顧客にペルソナデータを紐づけ、オンライン・オフライン融合した形での消費行動を把握することができる。
こうしてカスタマージャーニーマップを活用し、オンライン・オフラインを横断する顧客の課題を顕在化させても、体験価値の向上につながる施策の実行ができない場合がある。その要因として、各部署がバラバラにデータを管理しているなど、オンライン・オフラインのデータ統合が困難だという背景がある。
「オンライン・オフラインのデータ統合をしようと思うと、巨大なデータウェアハウスのような統合システムが必要となり、莫大なコストと人手、時間を要するので難しいという問題が出てきます。また、データを統合することができたとしても、それらを利活用するスキルが不足しているという課題もあります」(小路氏)
データを利活用するためのプラットフォーム
DNPはこうしたデータ統合などの悩みを抱える企業の課題を解決すべく、2019年にオンライン・オフラインのデータを統合し、利活用するためのプラットフォーム「DNPマーケティングクラウド®」の提供を開始した。
データをオンライン・オフライン問わず「ためる」環境。それらを統合し、活用できるようにデータの精度を上げる「強化する」環境。さらにそれらを「活用する」環境の3つをパッケージ化した点が特長のクラウド型サービスだ。
「『DNPマーケティングクラウド®』は、企業で元々使ってるシステムに大きな手を加えることなく、オンライン・オフラインの施策を実行できるデータ利活用プラットフォームです。オンライン・オフラインのさまざまなデータを統合する際に、通常はフォーマットを合わせる必要が出てきますが、『データレイク』という機能により、基本的にどのようなフォーマットのデータでも受け取ることが可能となりました」(小路氏)
たとえば、同じ会社について「株式会社○○○」「(株)○○○」といった社名の表記揺れがある場合も、きちんと同じ会社として認識し、統合される。
「強化する」フェーズでは、「データプレパレーション」という、AIによってさまざまなデータを収集・整形し、分析・利活用するためのデータを新たに生成する機能がある。つまり事前にデータ処理フローを設定することで、次回以降は自動でデータクレンジングが行われ、精度の高いデータが生成されるというわけだ。
「活用する」フェーズでは、オンライン施策はもちろんのこと、パーソナライズドDMやカタログの作成など、オフラインでの施策もシームレスに行うことができる。印刷所に発注するという手続きを要することなく、このクラウドから直接DNPの印刷工場にデータを流し込み、DMなどの作成・発送が可能になる。DMのリストを生成してから発送まで48時間以内※で対応できる(※DMの種類によって対応時間は異なる)。
顧客の体験価値を高め、作業効率もアップする
実際に、「DNPマーケティングクラウド®」を導入している小売企業では、実店舗と親和性の高い顧客にはオフラインのDMを、アプリと親和性の高い顧客にはアプリのプッシュ配信をというように、オンライン・オフラインの垣根を越えて、顧客ごとにマッチした方法で情報発信している。
また、DNP社内でも同プラットフォームを活用している。データプレパレーション機能を活用することによって、それまでは36時間を要していた1ヵ月の集計データの作成を、30分で行えるようになった。
ここまでの内容を総括すると、顧客体験価値を高めるために必要なことは2つ。1つ目は、オンライン・オフラインを横断した生活者の購買行動をデータ起点で分析して、顧客の体験価値を高めるための現状課題を可視化すること。これについては、DNPが提供する「エモーショナルカスタマージャーニーマップ」と「価値観カスタマージャーニーマップ」のようなソリューションを駆使しながら、勘や経験のみに頼らない描き方が求められる。
2つ目は、オンライン・オフライン横断でデータを利活用・活性化するための環境を作ること。こちらは、「DNPマーケティングクラウド®」のようなプラットフォームを最大限に有効活用することで実現することができる。
小路氏は、最後に今後の展望を語り、セッションを締めくくった。
「今後もさまざまな新しいテクノロジーやマーケティング手法が登場すると思いますが、DNPでは皆さまとともに課題を考え、オンライン・オフラインを融合した形でのマーケティング活動を支援させていただきたいと考えています」(小路氏)