「The Model」の分業体制について、今どう考えるべきか
――BtoBマーケティングでは「The Model」という、マーケティングや営業のプロセス管理による効率化の考え方が広く知られています。栗原さんは「The Model」に対して、どのような印象を持っていますか。
栗原:The Modelというわかりやすいコンセプトが知られるようになったことで、いわゆるレガシー企業の事業をお手伝いしているときでも、「これからはThe Modelのような組織を作って、マーケティングをやっていかなければならない」という話ができるようになりました。わかりやすい投資や組織づくりの方針が生まれたのは非常にいいことだと思っています。
一方で、The Modelの最も改善するべきポイントというのは、あの分業の仕方が完全に企業目線だということなんですよ。マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスという分業体制が決定的によくないと思います。だって、お客さんの購買プロセスの現実は異なるのだから。
――確かに。
栗原:認知してない状態から商材を認知して、理解して、検討して、商談して、発注する。このカスタマーエクスペリエンスに応じて担当を分けることがベストです。たとえば認知から理解に進める担当の人、検討している人を商談につなげる人みたいな感じですね。お客さんの視点で役割を定義すると、いろいろな物事がより的確に決まっていくんじゃないでしょうか。
――特に今は新型コロナの影響もあって、営業職が行き場を失っているという状況もありますよね。
栗原:今までは、見込み客にリーチするために、営業がテレアポしたり、外部のテレアポ代行会社にアウトソースしていました。しかし、多くの企業がテレワークになってどうなったかと言えば、電話がつながらない。客先に出向いていた商談も、オンライン商談で時間が従来の半分になってしまった。移動時間もないから日中の時間が空いているとか、そんな話も聞きます。
なぜそうなるかと言ったら、役割を企業視点で区切っているからなんですよね。でも、カスタマーエクスペリエンスを起点にして、「購買プロセスを前に進める役割とは何か」を考えれば、コンテンツを作る、メールを配信する、提案資料を作るというのも立派な役割です。組織全体の目標が「カスタマーの購買プロセスを前に進める」になっていれば、各々がやれることはあるはずで、いきなり仕事がなくなるなんてことはないんじゃないかなと思います。
――The Modelが分業制によって営業を効率化することで成長できた時代の産物だとすると、あらためてその意味を考え直す必要があるかもしれませんね。
これからのBtoBマーケティングで最も重要な要素とは
――先ほど「コンテンツ」という言葉が出てきましたが、栗原さんや才流が発信するコンテンツは、図ひとつとっても非常にクオリティが高いと感じています。BtoBのクリエイティブについてはどのように考えていますか。
栗原:コンテンツ作成で意識している点はふたつあります。以前、noteで「誰も君のコンテンツなんか見てない。」という記事を書いたのですが、もう十数年ぐらい前から『情報大爆発』という本があるくらい、世界はどんどん情報過多になっている。私がビル・ゲイツやイーロン・マスクだったらいいのですが、前提として、私が発信するコンテンツやメッセージなんて誰も興味ないんじゃないかなという想いがあります。
人はあまり他人に興味がない。校長先生の話も聞かないし、お父さんやお母さんに何か言われても基本スルーするじゃないですか。人はあふれすぎているメッセージを受け取るようなモードにはないので、そもそも誰にも読まれないだろうなという前提から、コンテンツを作る際はスタートするようにしています。ですから、どうしたら読んでもらえるか、どうしたら届けられるか、どうしたら最後まで見てもらえるかというふうにいつも考えています。
もうひとつは、せっかく読んでくれたのであれば、その時間をもらった分の価値をちゃんと提供したい。仕事の役に立ったとか、知的好奇心が満たされたとか、単純に「面白かった」でもいいんです。
ホワイトペーパーの表紙デザインだけはがんばっているけれど、内容は5ページぐらいでスカスカ。それでも、Facebook広告を出せばリードがたくさん取れるからいいじゃないかという見方もありますが、せっかく時間をくれた人に対してバリューを提供してないので、そういうことを繰り返しているとひずみが生まれますよね。注目してくれた人には、いい時間を提供したい。そう思いながらコンテンツを作っています。
――コンテンツも含めて、カスタマーエクスペリエンスに沿った仕事の役割を社内でどう設計し実現していくかは、これから大きな課題となりそうですね。
栗原:BtoBマーケティングの中で非常に大きな部分になると思います。カスタマーエクスペリエンスに沿った役割分担や組織図において、ひとつとても重要な要素があるのですが、それは何かというと「カスタマーの一貫したデータ」なんですよ。それがないと何もできないじゃないですか。
――そこはBtoBマーケティングの最重要課題ですね。
栗原:たとえば、中国では顧客データを日本よりも積極的に取れますし、テクノロジーも進んでいる。中国の成功している企業というのは、CXO(Chief Experience Officer)が非常に大きな力を持っています。なぜなら、カスタマーエクスペリエンスを改善していくと、ユーザーがより使ってくれるようになる。するとデータがどんどん蓄積されていって、よい打ち手が生まれる。そうなると、ユーザーはどんどんスティッキーに使うようになり、ビジネスは成長するし、ユーザーもハッピーになっていく。好循環が生まれます。
一方、日本企業に足りないのは、データを一気通貫で見にいけるような環境です。そのあたりになると、私たちみたいなエンジニアリングリソースのない会社ではどうしようもないので、いいスタートアップやサービスが出てきたら状況が変わってくるのかなと思いますね。