知らないうちに生まれる消費者行動との「ズレ」
もちろん「見えるクチコミ」からデータドリブンで施策を考え、PDCAを回していくことも大事なことだ。しかし、「消費者行動」という当然を無視したうえでデータだけを追っていっても、どこかでズレが生じかねない。たとえば、InstagramのDM上で次のような会話が発生しているとしよう。

上図は、とあるユーザーとその友達のやり取りを想定したものだ。友達がストーリーズにハッシュタグや位置情報などをつけずにカフェの写真を投稿していたのを見たユーザーは、そのままDMに遷移し、店舗の場所を聞いた。最終的に二人は、「購買」に向けた相談をしている。
InstagramのDMでこのようなやり取りが発生していることは、もはや日常的である。しかし企業側からすると、DMでユーザーが自社の商品や店舗、サービスに関する話題を出していることは外から見えない。「データ」としてカウントもされない。
データは、施策を考えるうえで心強い味方になり得る。しかし、表面的な事象からでは見えない消費者の行動や顧客の本質を想像する力が欠けてしまったら、いくらデータドリブンに注力しても、ズレた方向に向かってしまう可能性はある。
仮に、この店舗のオーナーが「うちはWebサイトとFacebookページを主に稼働していて、そこからデータを取って集客できている。Instagramからの来店はほぼなさそうだし、データを見るとWebとFacebookで十分お客さんの情報や客層が把握できているので、アカウントの作成は必要ない」という方針を持っているとしよう。
だがもし、本当はInstagram上でUGCがたくさん出ており、DMのようなやり取りを経て来店している顧客の方が多かったら? オーナーは、消費者の実態と合っていない施策を展開していることになる。実際の消費者行動に合わせたアプローチを取ればもっと売上を上げられる可能性もあるのに、これでは機会損失が発生していても無理はない。
業態を問わないダークソーシャルの影響力
また、ダークソーシャルはBtoCやBtoBtoCに限らず、BtoBの領域でも影響力を持つ。
一般的に、BtoBの商材には購買の意思決定に関わる人物が複数存在する。コスト面から見ても誰かの独断で気軽に買えるものではないし、社内で会議や交渉などの機会が生じるのだ。そこで、ホワイトペーパーや対外露出記事、社員のSNSアカウント、オウンドメディアのコンテンツなどは、社内のチャットツールで検討材料として共有されている。実際、SNSアカウントやnoteなどを見た若手社員が社内で情報共有してくれたことを皮切りに商談が決まり、決裁に至ったBtoB企業もある。
繰り返すように、この場合も社内で発生しているクチコミは外から見えないし、データもわからない。しかし確実に、購買に影響は与えている。ダークソーシャルの影響力や重要性は、業態を問わないといえるだろう。