オンライン○○に隠れた既成概念
では、ここまで見てきた4つの視点に共通する要因とはなんでしょうか。各事象を観察した上で、共通する既成概念を考察します。私は、観光業界におけるオンライン○○の既成概念を「オフライン体験のイメージを補足するための情報提供手段」と捉えました。各視点の前提には本稿の冒頭で私が分類した通り「観光業とはハードウェア産業である」という考え方があるのは明らかでしょう。
最終的に現地現物で体験しないことには「価値を享受した」と言えないハードウェア産業であるがゆえに、オンライン活用のゴールもまたオフラインでの体験であり、そのためにオンラインでは実際の体験をイメージさせるべきという考えがあるように思えます。
いわば、オフラインの本番イメージを補完する手段としてオンラインが活用されています。また、そのイメージ補完の方法もコロナ以前のオンライン○○はホームページでの掲載やSNSでの投稿など、一方通行のものが多く、そのコンテンツ閲覧だけでサービスとして満足したとは言い難いものが多いことは明らかです。

観光業界は「コミュニケーション産業」でもある
今回私が体験したオンライン宿泊は、こうした既成概念の枠から明らかに逸脱したサービスでした。最終的にはオフラインの熊野での体験をゴールにしていますが、だからといってオンラインだけの体験に満足できなかったわけではないというのは、本稿の冒頭に記載した通りです。
では何に満足をしていたかを考えると、そのポイントは「コミュニケーション」でした。バーチャル館内案内やバーチャル熊野ツアーなど、実際に体験しないと価値がないと思ってしまうコンテンツも、他の参加者との会話のネタにすることで価値化され、逆に「今は体験できないこと」を逆手にとった形になっていました。また、宿泊者がどこから参加しているかを共有する時間は、それぞれの参加者の方が今どこにいるという情報が会話のきっかけになり、物理的な距離を活かした「オンラインでしかできない体験」になっていたと考えられます。
人は観光に非日常を求めるものですが、それは現地現物の体験に限らずオンラインでも成り立ちます。むしろ、オンラインでしか体験できない非日常体験があることをオンライン宿泊は明らかにしました。その非日常体験とは世界中の宿泊者とのコミュニケーションです。
ハードウェア産業であることを前提に「オフラインこそが最高の観光体験」であることを既成概念としていた観光業界は「コミュニケーション産業としての観光体験」を提供することによって「オンラインならではの非日常体験を創出」し、新市場を創造する。そんな業界の新しい可能性をオンライン宿泊は切り拓いたと言えるでしょう。

オンライン宿泊の消灯前に主催の後呂さんはこのサービスを通じて「宿泊の概念を変えていきたい」と仰っていたのですが、改めてその言葉を振り返ると、このサービスによって宿泊の本質が「現地現物の体験」というハードウェアに加えて「コミュニケーション」というソフトウェアの側面が生まれると考えられました。そして、このソフトウェアの側面があるからこそ、冒頭の図右下に置いた「ヘアカット」や「フィットネス」などのハードウェア型サービスもオンラインで成立するのだと理解できました。
今回ご紹介したConvention Huntingの手法を使って、みなさんが打破したいと考える既成概念の正体も、ぜひ明らかにしてみてください。
おまけ「新しい時代に対応する観光復興ガイド」
今回ご紹介した後呂さんにもご協力いただきながら観光業界のニューノーマルをつくる「観光復興ガイド」を作りました。

Disruption Consultingと同じくTBWA HAKUHODOのコンサルティング・ユニットに属する65db TOKYOによるSNSの声を分析した「人々の旅行に対する考え方」の変化や「旅行意欲を高める20の兆し」をもとに、旅行者向けの企画をつくることができる考え方をご紹介しています。また、後呂さんはじめ既に観光業界のニューノーマルに向けて動き始めている有識者の方にも寄稿をいただいており、これから行動を起こそうとされている方の参考にしていただける内容になっています。
ガイドは出典を明記いただければ編集も可能ですのでぜひご活用ください!
新しい時代に対応する観光復興ガイド(PDF)
本ガイドについて解説するイベントも開催しますので、よろしければご参加ください。
▼2020年7月16日(木)17:00~18:00
『新しい時代に対応する観光復興ガイド―SNSから見える企画のタネ―』説明会