いい違和感がコンテンツには満載
中川:テレビには報酬を実感させやすくする「触媒」が非常に多いと思っています。たとえば、歯磨き粉に入っているミントによって「歯が綺麗になった」という報酬をより実感できる。このミントのように、絶対に必要ではないが習慣化が促される要素が触媒なんですが、テレビ番組にも音楽やキャスティングにいい意味で遊びや余白、無駄といった触媒があると思っています。水野さんは触媒についてどう考えていますか。
水野:テレビ業界は触媒を非常に意識している業界だと思います。普段の会議でも、別になくても番組は成立するんだけど、クセ付けのための細かい演出をいつも話し合ってます。これがきっと触媒ですね。
中川:マーケティングはどうしても左脳的になりがちで、商品開発やコミュニケーションの無駄を削る傾向があります。テレビコンテンツの触媒の付け方は非常におもしろいし、参考になります。
水野:たとえば、「金スマ」の赤い服の女性も触媒でしょうし、私が「初耳学」の初期に出演者全員に白い服を着てもらっていたのも触媒ですね。あれは番組を見た瞬間0.1秒の引っ掛かりを目的にしていました。
あと、「プレバト!!」では意図的にアニメのサントラを多用しています。番組の内容とは関係ないけど、アニメファンが食いついてくれたらいいなと思って続けているんですけど、これも触媒ですね。触媒のおかげで良い違和感が生まれると、番組のイメージが明確になって習慣化にもつながりますね。
SNSのバズと視聴率は関係ない
中川:最後に、テレビとSNSの関係について聞きたいと思います。今後はSNSを意識した番組作りをしたりするのでしょうか。
水野:SNSは必ず目を通していますが、最近は、バズらせることを目的とした番組作りはしないって決めています。実は、ここ数年、SNSの仕掛けを試行錯誤してきたんです。バズらせるのが得意だという広告会社の人に知恵をもらったりして、バズを意識した番組作りをしたこともあるんですけど、視聴率への好影響はまったく実感できませんでした。
でも、それって当たり前なんですよね。ツイッターのトレンドに上がるツイート数と、マスの視聴者の数って桁が4つくらい違いますし。ちなみに今年、サンドウィッチマンさんと特番をやったんですけど、ほとんどツイートされなかったのに若い層の視聴率、ぶっちぎりで1位でした。だから改めて、テレビの原点である見て楽しい、信頼できるコンテンツを作っていくことが大切だと思っています。
中川:でも、SNSの盛り上がりが話題となる地上波ドラマなどもありますよね。
水野:「3年A組」ですよね。あと「あなたの番です」や「テセウスの船」は、推理の考察がSNSでバズっていましたけど、どれもコンテンツ自体に魅力がしっかりありますよね。だからバズは目的ではなくて、番組がおもしろいという結果についてくるものって考えるべきなんです。
ただ、SNSはリアルタイム視聴を増やす手段としては有効だと思っています。もはや中高生は、全録ネイティブ世代ですし、テレビの編成を考慮しながら生活してくれるわけがないですよね。でも、フォロワーの多い出演者が放送時間中にインスタライブで副音声的な仕掛けをしたら、リアルタイムに見る理由になるかもしれないですよね。
中川:なるほど。テレビの元々持っていた価値であるリアルタイムの視聴に回帰させるんですね。
水野:目先の視聴率を取りたいって思うと、どうしてもSNSを放送前の告知で活用することばかりに目が行くんですけど、放送中に上手く使い続けたほうが習慣化には効果的だと思っています。近いうちにそんな仕掛けを実現したいですね。
中川:ありがとうございました。長く続く番組の作り方と習慣化する商品設計の間に、共通している部分が多くてびっくりしました。そして、非常に合理的に番組を作っているのも勉強になりました。テレビ番組の見方を変えてみるとマーケターの方にも新たな気づきがあるのではないでしょうか。