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リゾームマーケティングの時代

2020年、現実となったマクルーハンの予言 データとUXと自由、その主権とインテリジェンスの意味

デジタル主権を取り戻す、その背景と真意

 Financial Timesは2019年11月の記事「Angela Merkel urges EU to seize control of data from US tech titans」で、「デジタル主権」(digital sovereignty)をシリコンバレーから取り戻すべきだと書いている。

「The German chancellor said the EU should claim “digital sovereignty” by developing its own platform to manage data and reduce its reliance on the US-based cloud services run by Amazon, Microsoft and Google.」

【意訳】「ドイツのメルケル首相が言うには、EUは自らのデジタル主権の権利を要求し、アマゾンやマイクロソフト、グーグルなどの米国企業に過度に依存するのではなく、EU独自のプラットフォームを構築しEU市民のデータを自ら管理するべきだ」

 また同様に、Financial Timesの記事「The people, not governments, should exercise digital sovereignty」では、ワールド・ワイド・ウェブの父として著名な、Tim Berners-Leeの言葉を引用して、「By default you will control your data. By default it will not be shared with anybody」(意訳:そもそも初期設定として、自分のデータは自分がコントロールすべきだし、誰とも共有されるべきではない)と論じている。

 「デジタル主権」(digital sovereignty)をGAFAに奪われてしまい、EUの市民や国家が知らないところで、GAFAがセンサーで感知した現実を構築し、勝手に情報化して人間の脳が認識できるようにする。それは、知らないところで、知らない現実を、新たな実存として作り出す。

 「個人の主権」感覚を喪失し、離人感・現実感消失症に陥るのと同様に、国家もその存在意義が朦朧とし共同幻想の綻びを露呈する。だから、メルケル首相も不安を隠しきれないのだ。自国民のデータをGAFAがコントロールして、新たな現実と実存を作り出してしまっている。そんな不安を払拭し、その自律性と主体性を回復したくなる。主権(sovereign)を喪失すると、自由が奪われた気がするからだ。

 メディア論で有名なマーシャル・マクルーハンは1970年、共著『From Cliche to Archetype』の中で、情報化時代には「the less we exist」(我々の存在は危うくなる)と予言した。

「As information itself becomes the largest business in the world, data banks know more about individual people than the people do themselves. The more the data banks record about each one of us, the less we exist. 」
【意訳】「情報そのものが世界最大の産業になるとき、データバンクは個人について、本人以上に多くを知るようになる。データバンクが個人情報を集めるほど、我々の存在は危うくなる」(p13)

 昨今、「情報銀行」(Information Bank/Data Bank)が注目されているが、マクルーハンが生きた時代、約50年前の「data bank」は意味が違う。当時はデータベースとほぼ同義で使っていた。

 ただ、個人のデータを集めるとき、そこにリスクはある。それは、今も昔も同じだ。「the less we exist」(我々の存在は危うくなる)とは、個人データの収集を野放図にすると、社会は窮屈になり、我々の自由と人間性が失われていくという意味だ。

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2020年、現実となったマクルーハンの予言

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/08/05 08:00 https://markezine.jp/article/detail/33908

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