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リゾームマーケティングの時代

2020年、現実となったマクルーハンの予言 データとUXと自由、その主権とインテリジェンスの意味

2020年、現実となったマクルーハンの予言

 2020年のGAFAやBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)の影響力。50年前のマクルーハンの予言は現実になった。まさに「情報そのものが世界最大の産業」で「我々の存在は危うく」なっている。そして、主権(sovereign)を喪失するのではないかと不安で仕方がない。個人の主権や国家の主権という政治的観点だけでなく、経済学的な意味でも、主権や自律性、主体性の重要性は大きい。

 20世紀を代表する経済学者、フリードリヒ・ハイエクは、自由主義のバイブルと言われる『隷従への道』で、私有財産制を「自由を保障する最強の制度」と論じた。そして、その理由として、生産手段と権力の関係を指摘している。

「ばらばらに行動する多くの人によって生産手段が所有・管理されているからこそ、完全な権力を掌握する人は一人もいないし、誰もが自分のことは自分で決められるのである。すべての生産手段が一人の手に握られるとしたら、それが名目上は『社会』であれ、独裁者であれ、その一人が全員に対して完全な権力をふるうことになる。」
(出典:p298『隷従への道』

 中国の習近平国家主席は6月30日、香港での反体制活動を禁じる「香港国家安全維持法」に署名し公布した。政治的に個人の主権や自由を奪うと同時に、社会主義国家としては、経済的にも私有財産性を否定し、個人データを国家の管理下におく。香港市民は、マクルーハンの予言どおり「the less we exist」(我々の存在は危うくなる)と感じているはずだ。

 こんな醜悪なことが許されるのか?  多くの人が感じていることだ。

 私は今年から株式会社ビービットにも参画している。そこでは、「UXインテリジェンス」という精神とその能力の重要性を説いている。その理由は、世界はいま、「自由」を基礎とするユーザー中心の社会設計が求められているからだ。

 たとえば、ビービット副社長の中島克彦さんと、「UXインテリジェンスに込められた『自由』への思い」というタイトルで対談したり、ビービット藤井保文さんの著書『アフターデジタル2』も、その副題は「UXと自由」となっている。

 ここ数年、データドリブンと喧伝され、データさえあれば、何か新しいイノベーションが起こせるという幻想があった。しかし、データを集めれば集めるほど「the less we exist」(我々の存在は危うくなる)のは、マクルーハンが50年前に指摘した通りだ。かつ、ミルが『自由論』で論じたように「individuality with sovereign」(主権を持った個人)を政治的な基礎に据えたインテリジェンスがいま求められている。

 データやそのほかの生産手段の独占を排除し、ハイエクのいうように、データ経済でも私有財産制を堅持しなければ、世界に未来はない。そうしなければ、中国のように、「隷従への道」を突き進んでしまう。

 だから、データをドライブするのは、主権を持った自由な個人のインテリジェンスでなければならないのだ。決して、データに主導権を引き渡してドライブさせてはならないし、いわんや、国家権力の横暴を許すなど知性の堕落である。

 いま、我々は、国際社会・国際政治のUXをも視野に、自由を語らなければならない。自由に通じたインテリジェンスは、個人の主権とその自律性・主体性を尊重し、生き生きとした活力ある世界を構築する。

 インテリジェンスが主導する未来は、個々人が自分自身を充分に統治し、いわば自分なりの思想、生き方を持って、それを実行していく。十分に成熟した個人が自由に自己実現して生きていく。そんな世界を、知性の矜持が切望し、その里程標を刻んでいくはずだ。

 ここを譲ることはできない。ここに妥協はない。人類の未来がかかっている。中国共産党の醜い夢は、夢の中でみている夢として葬り去り、自律的・主体的に我々自身が、我々の現実と実存を構築していくべき時である。

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2020/08/05 08:00 https://markezine.jp/article/detail/33908

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