高級食パンを一日に500本販売
今回紹介する書籍は、『「考えた人すごいわ」を考えたすごい人』。著者は、全国160店舗以上のベーカリーのプロデュースを手掛けた岸本拓也氏です。
岸本氏は、外資系ホテルで広報PRや、ホテル内のレストランカフェ、ベーカリーショップにおけるマーケティングと企画業務に従事し、退社後にベーカリーショップの設立やプロデュース、ホテルベーカリーの業態開発などを行ってきた人物。現在はジャパンベーカリーマーケティングの代表取締役社長として、ベーカリーを始める人のための開業のサポート、プロデュースをしています。
岸本氏がプロデュースするのは、いずれも「高級食パン専門店」。書名の「考えた人すごいわ」もその店名の一つです。「考えた人すごいわ 清瀬店」ではオープンから2年が経過しても行列ができ、一日500本の食パンが売れると言います。
ここ数年メディアにも取り上げられ、耳にすることが多くなってきた高級食パンですが、その中で売れ続ける店舗をプロデュースできた秘訣は何なのでしょうか。
高級食パン専門店が次々と出店する中では「もう高級感があるパンというだけでは、生き残っていくのは難しい」と言う岸本氏。他店との違いを出すためには、その店に行く体験にその店の「個性」という付加価値が必要だと述べています。
ではどのように個性を出すのでしょうか。岸本氏が店の個性を出す上で心がけていることの一つに「ストーリーの掛け合わせ」があります。
運営者と土地のストーリーを掛け合わせる
たとえば新静岡駅近くにオープンした「すでに富士山超えてます」では、その店名で「富士山(=日本一)を超えるパンを作りたい」というクライアントの意気込みと、味・品質への信頼を表現したと言います。また、都心への展開を視野に入れているため、他県に進出した際に拠点が静岡であることが伝わるようにし、地元の富士山へのリスペクトも込めた店名になっています。
さらに、その商品となる食パンも富士山にちなんだネーミングで「最高峰」と「御来光」。見たまま、食べたままの高級感のある名前ではなく変わった名前にすることで、食べた時とのギャップが生まれると言います。
岸本氏はこのようにベーカリーをオープンする人のストーリーと開店する土地のストーリーの2つを掛け合わせることが重要だと述べています。例に挙げた店名のように意外性のある要素が付加価値を生むというのも岸本氏プロデュースの特長ですが、その背景に運営する人や土地のストーリーがあることで、コンセプトにブレがない店舗のプロデュースができると説いているのです。
本書では、こうしたプロデュースの根底にある考え方やアイデアの源泉を紐解く「岸本流 思考回路」から、マーケティング、ブランディングへの考え方、チームでの戦略まで幅広く解説しています。ベーカリーに限らず、店舗を使ったビジネスに応用できるノウハウが詰まった一冊です。
コロナ禍による影響も無視できませんが、当然それに限らず消費者のトレンドは刻々と変化しています。変化し続ける市場の中でブレずに売れ続ける店舗の作り方を、本書を通じて学んでみてはいかがでしょうか。