ディスラプションを逃れて見事にDXできた企業、何をした?
一方、これらのディスラプションの嵐にいち早く対応し、デジタルトランスフォーメーション(DX)に成功した企業も数多い。なかでも興味深いのは、明らかな脅威下にあった新聞社と書籍出版業界のDXである。

ドイツのメディア大手であるアクセル・シュプリンガーは、他の新聞社と同じく大衆紙「ビルト」をはじめ多くの紙媒体を発行していたが、今やデジタルメディア企業へと変貌。「アクセル・シュプリンガー・デジタル・ベンチャーズ」という投資会社を設立し、次々とニュースサイト、ライフスタイルメディア、動画ニュースサイトを運営する企業を買収し、今ではデジタル収入が大半を占めるとされる。
書籍出版業界では、ドイツの電子書籍出版プラットフォーム「Tolino(トリノ)」の事例がある。アマゾンに対抗するため、2013年にドイツテレコムと書店チェーンが連合を組み、「Tolino」というプラットフォームを立ち上げ、書店で「Tolino」の端末を売り、顧客が電子書籍を買う書店を選び、その売上を書店が得る仕組みである。
個々の顧客は書店が管理し、店頭であろうが電子端末であろうが同じ体験やレコメンデーションを提供する。シームレスな顧客体験の提供と、紙の本の売上減少を覚悟し、電子書籍を売る決断をしたことがポイントであろう。
アマゾンにデジタル武装で果敢に対抗していったのは米国大手小売のウォルマートだ。かつては苦境も伝えられたが、オンラインで注文して、自宅に生鮮食料品などを数時間以内に直送する、ドライブスルー形式の受取所でピックアップする仕組みを実現。コロナ渦の2020年2~4月の四半期決算では、増収増益を達成した。売上の伸びは過去20年で最大であったそうだ。
デジタルへの投資は累計で1兆円を優に超え、その戦略に対して懐疑的な声も多かったが、生鮮品に弱いアマゾンの弱点を突き見事に対抗してきた。
D2Cモデルが、企業のビジネスとマーケティングのDXを加速
日本にも様々な事例がある。伝統的な事例は建設機械のコマツの「KOMTRAX」であろう。全世界で稼働中の建設機械にセンサーを取り付け、稼働状況や故障の予兆を把握し必要なサービスを提供する。モノの売り切りモデルから、サービス提供モデルへと変貌した。
さらに「KomConnect」というソリューションを導入して、遠隔でもベテランでなくても工事ができるという「スマートコンストラクション」を実現しようとしている。
「脱製造業」を掲げるブリヂストンもTomTomというオランダのデジタルフリートソリューションプロバイダーを傘下に収めた。これにより、タイヤなどに取り付けたセンサーからデータを集め、事業のサービス産業化を進めるなど、MaaS支援企業を目指していくという。
ソニーも映画、音楽、ゲーム、金融へとサービスを多角化して「Direct to Consumer(D2C)」でそのエンドユーザーと直接つながり始めている。今や売り切りモデルから、継続的、安定的な収益モデルの企業へと生まれ変わりつつあるのだ。
これらの成功事例は、企業のビジネスそのものをDX化してD2Cを実現しているお手本であろう。一方、既存事業の拡張や新たなサービスの事業化のため、事業の一部をD2C化する動きも活発化している。
キリンビールの「キリンホームタップ」はその好例だ。月額料金を払い、専用サーバーで毎月送られてくる工場直送の作り立てのビールを家庭で楽しむ。店頭と料飲店での販売とは違う第3の販売チャネルとして、D2Cによる既存事業の拡張に挑戦しているのだ。
ネット上の利用者の声を聞いてみると、モノを買うという感覚よりは、家庭で家族と一緒に生ビールを楽しむといった今までになかった「楽しい経験をしている」ことに気づく(HPによると今も3ヵ月待ちの。コロナ渦でやっぱり「生」は恋しいのだろう)。テレビCMなどでブランド・製品訴求を強化して販売店や飲食店で拡販する手法と、継続的に安定的なファンを獲得していく手法と、両者は対照的である。
一方、スタートアップの「MOON-X」のクラフトビールの月額販売は、ビジネスそのものがD2Cビジネスそのものである。SNSなどを通じて熱心なファン層を獲得している。また、顧客の声によって製品改善が行われる仕組みも確立できているという。
似たような商品を扱うサービスでも、企業の状況やブランドによってD2Cのパターンと役割は違う。