デジタル推進のため2社が取った真逆のアプローチ法
福田:デジタル接客の文脈でも出ましたが、店舗を持つビジネスでは、DXにあたって人事や評価制度も変える必要がある場合があります。ドラスティックに変える行為自体と、新しい稼ぎを作ることでドライブさせる欧米的な構造改革に対する、日本人的な抵抗はありませんでしたか?
吉田:デジタルのことをやっていても大事なのは「信頼づくり」、アナログで泥臭い部分だという話はずっと伝えています。レイヤー別のプレゼン然り、他の部署の人もお客様だと思ってやる、自分のやりたいことを通すには、そこまでしないといけないとも。

福田:僕はわりと逆のアプローチで、先進性と高度なスキル・テックを持った小規模な組織を作って稼働させるまでを短期でやりました。その間、外部と必要以上にコミュニケーションを取らないできた。でもある程度メンバーのスキルを高め自律的に成果を出せるところまできたので、今年からは社内になるべく多くのコネクションを増やしてスキルトランスファーする方向に転じています。全社展開をあとから始めた、ということなんですが、吉田さんのアプローチとある意味真逆ですね。
吉田:確かに全然違いますね。私たちは御用聞きに徹して、各部署が抱えている課題を聞き、デジタルで解決できるものは引き取って、あとから予算と人をもらっていくことで所帯を広げてきました。ある程度それが回り始めたところで、各事業会社にスキルトランスファーし、手放した先にまた新しいことがあるのでそれをやっていくスタンスです。
山上:スピード面では、半年で基盤づくり、また半年で分析と、1年ぐらいで目標としていたところまで到達できたので、ブルドーザー的にやっていく段階は終わったと考え、他部署とのコミュニケーションを強めています。どちらのやり方が良いということではなく、どちらの進み方にも大変な部分がありますよね。
吉田:組織を強くするためには後進の育成も重要なので、成果が出そうな仕事を部下に任せるようにしています。成果が出れば部下も自信が出て、意見ややりたいことも出てくるので、そういう成功をするための道筋をある程度見つけられるような形に整える。もう一つは視野が狭くならないよう、定期的に他社との勉強会や交流会に連れていくようにもしています。
CRMから事業開発へ活躍の幅を広げる
――最後に、吉田さんのチームでは会員情報を活かしたマーケティング・コミュニケーションにとどまらず、新たなビジネスを展開されて成果を収められているとうかがいました。今後の展望をお聞かせください。
吉田:3200万人の会員情報を用いて、販促アプローチするプランを他社様にご提案しています。弊社から送る会員向けのDMやメールにクライアント様の商品・サービスの情報を掲載し送ったり、電話をかけたり。良い反応が得られることから、クライアント様にも喜んでもらえています。
この事業を展開していくなかでAOKI社員の目線から自由になれたというか、顧客はスーツを購入する人ではなくやはり生活者なんだと実感できました。他社様の商品をご案内したら、スーツDMのときより3倍のCVRが出てちょっとショックを受けつつも、一方で必要な商品・サービスをふさわしい伝え方でご提供できればこれだけの反応が返ってくるんだなということがわかりました。
ただ、AOKIから他社様の商品のご案内がくることに困惑される方もいるでしょうから、そこをどう説明していくかを大切にしています。「人々の喜びを創造する」というAOKIの企業コンセプトがベースとなって他社様の商品・サービスも紹介していますというメッセージを今後さらに強めていきたいと考えています。
福田:今日はありがとうございました。
対談を振り返って、福田さん・山上さんからのコメント
一人で顧客データ活用プロジェクトを立ち上げ、予算も自分で捻出し、信頼づくりを第一にここまでの成果をあげられている吉田さん。実は留学のために卒業寸前だった、という話は会社の方はご存じなのでしょうか(笑)
会社をよくしたい、こうすれば絶対によくなる、といった信念が先にあることが大事で、そこに向かってどうしたら進んでいけるか、吉田さんのお話にはたくさんのヒントがありました。
ありがとうございました!