インサイトを理解して仕組みを作る
本連載では「伝統的企業のデジマ組織がDX推進のためにどう働きかけたか」をテーマに、JTBにおいてDX推進に携わっていらっしゃるWeb販売部 データサイエンスセントラル 統括の福田晃仁さん、副統括の山上亜紀さんと様々な企業事例の本質を掘り下げていきます。
JTBにおいて福田さん、山上さんが推進してきたデジタル変革の詳細については連載「JTBが挑むデータドリブン戦略 立ち上げから運用まで」をご覧ください。
――本連載第二回となる今回は、大手ホテルチェーンヒルトンのマーケティング統括本部長であるベンジャミン・ホルトさんをお招きし、旅行業界におけるDX推進の取り組みとそのポイントについてうかがっていきます。
ホルトさんはヒルトンに参画される以前、オーストラリア政府観光局、オーストラリアワイン輸出事務所、大手商社といった組織でマーケティングや事業開発に従事されてきたそうですね。その中でも印象に残っているお仕事はありますか?
ホルト:印象に残る仕事はいろいろとありますが、日本の消費者に貢献できたエピソードで言うと、オーストラリアワイン輸出事務局でワイン消費を広げるために味覚表現をメディアと開発した仕事が印象的です。
ホルト:当時の日本のスーパーにあるワインコーナーは棚のナビゲーションがなく、一般の方ではワインをどう選べばいいのかがわからないような状態でした。そんな状況を少しでも変えようと、業界紙の記者と一緒に、科学的な知見に基づいた棚割り方法を開発しました。
具体的には、それまで白ワイン、赤ワインの2種類だけで分類していたものを、渋みや口当たりなどの味覚別にわかるようにして、食事とのマッチングがしやすいようにしました。それをスーパーのバイヤーや社長に提案したところ、徐々に導入されていき、今ではよく見られるものになりました。POPも見やすいものを開発しました。
山上:確かに、ワインって昔は選ぶ基準が主に値段でしたよね。
福田:裏にしっかりとしたデータや理論があった上で、手に取ってもらうため、受け取られやすくする工夫があったということですよね。単なる属性割りではなく、顧客の好みや本来望んでいること、インサイトを理解して仕組みを作る考え方は、現在のホテル業界でのお仕事につながっている気がします。
最適な体験提供のために旅ナカのデータを取得
ホルト:最近は消費者の動きをリアルタイムに把握して、体験のアイデアを提示できるようになっているじゃないですか。JTBさんではどんな施策をされているのですか?
福田:旅行中の行動、いわば“旅ナカ”のデータ活用を考えています。
たとえば紙で運用しているチケットをアプリ化するなどの施策です。これはただの購買ログの蓄積だけでなく、ユーザのアクションに応じたサービスを提供できるようになります。旅ナカのデータを取ることで、これまで見えなかったニーズが探せるのではと考えています。
ホルト:アプリを使ってもらえれば、リアルタイムでオファーができるようになる。そうした取り組みはとてもおもしろいですよね。
ヒルトンが提供する「ヒルトン・オナーズ・アプリ」でも、旅ナカを快適にする機能を搭載していて、スタッフおすすめのレストランや劇場の情報などのコンテンツを用意し、ホテルにチェックインするとそうした情報が出てくるといった仕掛けがあったりします。
それを考えると良い意味でキリがなくて、オポチュニティだらけだと感じます。