コミュニケーションを軸にシステムを考える
山上:アプリはリピーターを作るCRM観点で使っているのでしょうか。
ホルト:そうですね。長いスパンのコンテンツマーケティングで、「ヒルトン=いつもおもしろい情報がある」というイメージを作れればと思っています。
福田:CRMは顧客満足度のような、計測しづらい効果を内包していますよね。ダイレクトなリターンが見えづらい施策は社内で通しにくいと思うのですが、CRMが顧客体験の向上やサービスへの評価に直結していることがわかりやすい事例などあるでしょうか?
ホルト:たとえば、自社のアプリ上で把握できる情報と、トリップアドバイザーのような第三者のアプリで書き込みを残してくれたものがリアルタイムで把握できるようになっているのですが、その中にネガティブな書き込みがあった場合、すぐに総支配人にアラートが送信されるようになっています。それによってリアルタイムでハンドリングが可能で、良い方向に向けられる。
他にもインフルエンサーが近くにいる際にアラートが届くような設定もしていて、場合によって「今日はありがとうございました」とプレゼントを渡すなんてことも可能です。
福田:顧客とのコミュニケーションを軸にシステムを構築しているんですね。ここにも、インサイトを起点とした仕組みづくりを大切にされる、ホルトさんの考え方が反映されているように感じます。

データの向こう側にあるものが大事
――ホルトさんは、データ中心の「データセントリック」から、データを意思決定のひとつの情報と捉える「データインフォームド」へと移行し、データを理解してビジネスやオペレーションに活かすことに注力すべきだと指摘されていますが、この部分についてもう少し詳しく教えてください。
ホルト:ホテル業界は、ホスピタリティの世界。常に「ヒューマンタッチ」を意識しています。あらゆるマーケティングアクションにデータが活かされるようになっていますが、データが中核になればなるほど、データでは見られない人間的な部分が重要になる。だからデータを踏み台に、そこから何かをローンチするためには、データサイエンティストチームに決断を任せるのではなく、マーケティング部門が行うべきだと思います。
ヒルトンでは問題が発生した時、「Make it right」でお客様を第一に何でもよくしようという想いと、「Surprise & Delight」で、たとえば誰かの誕生日を見聞きした時には、ミニサイズのケーキをプレゼントするなどの気遣いを大事にしています。その少しの差が大きいのだと思います。
福田:僕らもヒューマンタッチは非常に重要視しています。データを読み解くことを、社内では「解釈する」と言っているのですが、それはリアルの世界で人間がどういう風に動いた結果のデータなのか、データの向こう側をいつも考える必要があると考えているからです。
データで読み取れるファクトと、そのファクトが示すリアルワールドで起きていることにはギャップがあります。そこを読み替える能力を備えた人がデータを扱わないと、ぎこちないホスピタリティになったり、もしくはまったく求められていないものになったりしてしまう。
だからこそ、寄せるべきはファンクションではなく、購買心理やシチュエーションです。ホルトさんのデータセントリックからデータインフォームドへ、というヒューマンタッチを込めたデータの活用法は、僕らが常に意識している“データの向こう側”の世界を考えた活用法と非常に似た視点だと思います。
ホルト:日本には温泉はじめ風光明媚な観光地が多く、伝統文化を味わうアクティビティも豊富です。コンテンツ作りには事欠かず、豊かな旅ナカデータも取得できるはずですから、旅行業界としてデータを活用しあうコンソーシアムができたら良いと思います。
日本のデータ活用が遅れているのだとしたら、それはチャンス。業界全体で乗り越えて夢を描けたらいいですね。