※本記事は、2020年9月25日刊行の定期誌『MarkeZine』57号に掲載したものです。
カラビナハート株式会社 吉田啓介氏
2020年5月に入社。企業のSNS活用や効果の可視化、組織作りなどを支援するマーケティングコンサルタント。4月まではすかいらーくHDにて、オウンドメディア全般のコンテンツ管理の責任者としてマーケティングに従事していた。2017年にSNS公式アカウントを立ち上げてチーム化、ノウハウと再現性を持って現職に。マーケティング担当者約650人が参加しているコミュニティ#マーケターの集い主催。Twitter:@ruiji_31
Q1.最近、いちばん感銘を受けた書籍とその理由は?
『WIRED』の前編集長・若林恵さんが編集された『NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方』です。
長いタイトル、非定型でピンクの装丁に目を惹かれますが、内容はそれ以上にパンチ力があります。政治や政策の是非ではなく、行政や国民みんなの公共の課題を、だれを悪者にするでもなく冷静に平易な言葉でわかりやすく語ってくれています。最近は新型コロナの影響もあり行政と国民の関わりが増えました。布製マスクの配布、10万円の給付金、様々な支援策、そしてGoToトラベル・GoToイートの両キャンペーンなどは、メディアやSNS上でルールやオペレーションについて様々な言葉を目にしました。
対新型コロナの施策を見てDX(デジタルトランスフォーメーション)に課題を感じたマーケターは多いと思います。民間企業がデジタルを生活に根付かせ少しずつ浸透し、次は暮らしのOSともいえる行政にもその概念が必要な時期なのだと。電子政府の最先端国であるエストニアの例を挙げながら、行政の在り方、民間企業や私たちの関わり方のヒントがたくさん書かれています。
行政は多様化する市民の暮らし、細分化する要望に合わせて「サービス」を提供しなくてはなりません。企業のマーケティングと共通する面もあって、デジタルテクノロジーは多様化、細分化への対応はめっぽう強いですよね。民間で働くデジタルマーケターの知見を行政に活用して、市民がもっと便利に使えるようにできないかなと考えるきっかけをくれた一冊でした。
Q2.「マーケターならこれを読むべし!」という書籍とその理由は?
大学生のころ、テスト期間中に友人と映画「マトリックス」を観ました。この世は仮想現実……いまさら勉強しても無駄なのでは? と一晩中遊んで試験を迎えたことを、この本を読んで思い出しました。ジェラルド・ザルトマン著『心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす』です。
人間の認知行動の95%が無意識のうちに行われているという話が340ページにわたって論じられていて、私たちが日々取り組んでいるマーケティングって一体……と不安になります。コミュニケーションの80%が非言語で行われている話も出てきて、SNSを活用して言葉でどう伝えるかを仕事にしている私には手に汗握る興味深い内容です。
お客様の心には白紙スペースがあってそこにどんなメッセージを描くかを考えがちですが、もちろんそんな都合のよい白紙エリアはありません。一方でたくさんのヒントを与えてくれます。ニューロンの仕組みに始まり、メタファーを介して心や脳に語り掛ける方法など、脳科学の観点から覚えてもらう、好きになってもらうアプローチを提示してくれます。
本書では「マトリックス」ではなく「タイタニック」が例に出てきます。沈没の原因は氷山だったそうですが、船長らは氷山があることを知りながら、水面上に見えている氷だけで判断し水面下の大きな氷塊に気づけなかったことが事故を招きました。マーケティングでも同様に、社会や職場の慣習に縛られず、刻々と変化する「見えにくい」市場に目を向けることの大事さを語っています。