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第106号(2024年10月号)
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MarkeZine Day 2020 Autumn(AD)

累計契約200万件突破のUQモバイルに学ぶ、AIマーケティングが成功する事業と組織のあり方

 MarkeZine Day Autumn 2020の2日目。「KDDIグループが実現するAIマーケティング~UQモバイルの事例から見るマーケティングにおけるAI活用の要諦~」と題して登壇したのは、KDDIの山本隆広氏、UQコミュニケーションズの水谷晃氏、そしてARISE analytics(アライズ アナリティクス)の桝本智志氏(アクセンチュア所属。2017年よりARISE analyticsに参画)の3名だ。それぞれの立場から、注目の集まるAIマーケティングの導入と実践、そしてAI人材の育成に関して語られた。

KDDIのデータドリブン経営を支援するARISE analytics

 はじめのスピーカーは、KDDIの山本氏。同社の事業戦略と、ARISE analyticsとのパートナーシップについて紹介した。

 KDDI株式会社 サービス統括本部 パートナービジネス開発部長 山本 隆広氏
KDDI株式会社 サービス統括本部 パートナービジネス開発部長 山本 隆広氏

 KDDIでは、2020年にスタートした5Gを前提に、イノベーションの創出や従来の通信事業とライフデザインの融合、そしてグローバル事業のさらなる拡大に加え、auペイなどの金融事業に注力。それらを支えるビッグデータの活用に関しても、事業戦略の一つとして位置付けている。

 そして、KDDIがビッグデータ活用で目指す先は、顧客体験価値の最大化とデータ駆動型社会の実現。それを支援するために、2017年に設立されたのがARISE analyticsだ。同社は、KDDIとアクセンチュアのジョイントベンチャーで、300名を超えるデータサイエンティストが所属し、マーケティングやIoT領域でのデータ分析に強みを持ち、企業のDX支援を行っている。

 また、携帯電話のGPS位置情報データを用いた分析ツール、KDDI Location Analyzerの開発にも関わった。最近では、携帯電話のGPS位置情報データを用いて、コロナ禍における人流解析などの分析レポートなども手掛けている。

 ARISE analyticsの特徴は、AIによるデータ分析とコンサルティングに留まらず、現場と一体となって企業課題を解決に導くこと。KDDIとともに培ってきた知見やアセットを、同社のグループ会社やパートナー企業へ展開するフェーズまで成長している。その成功事例の一つが、UQコミュニケーションズだ。

顧客満足度につながる因子をAIで可視化する

 続いて、UQコミュニケーションズの水谷氏が、ARISE analyticsとともに推進してきた同社のAIマーケティングを紹介した。

UQコミュニケーションズ株式会社 事業開発部 副部長 データ経営推進グループマネージャー 水谷 晃氏
UQコミュニケーションズ株式会社 事業開発部 副部長 データ経営推進グループマネージャー 水谷 晃氏

 2018年、UQコミュニケーションズはデータ活用組織の立ち上げに際し、ARISE analyticsとパートナーシップを結んだ。ARISE analyticsは、施策高度化、顧客理解促進、データ活用環境の整備、AI活用人材の育成という4つの領域から、UQコミュニケーションズを支援。

 マーケティングのAI活用となると、データ分析環境の整理と予測モデルの構築がイメージされがちだが、水谷氏は「まず施策を実行し、そのフィードバックデータをAIに学習させる、フィードバックループの構築に価値があった」と話す。そして、それを支えるAI人材育成が、非常に有効だったと振り返った。

 とはいえ、部署の立ち上げ当時、社内からは「何をするチームなのだろう」との反応が多かった。そこで水谷氏たちは、既存の営業施策の効率化にフォーカスし、いち早く成果を出す「クイックウィン」を心がけたという。

 「AI活用にあたっては、まずその利便性を社内に浸透させることが大事です。また、当社の社長をプロジェクトオーナーと位置付け、経営層からのコミットをもらいながら、定期的に成果を発信していきました」(水谷氏)

 UQのマーケティングゴールは、顧客の満足度を高め、継続利用を実現すること。「お客様が私たちのサービスのどこに満足され、新規契約や継続を選ばれるのか。その主要な因子を、AIで可視化したいと考えたのです」と水谷氏は語った。

ゼロからデータ分析をはじめ、2年連続顧客満足度第1位に

 では、具体的な取り組みを見ていこう。まず手がけたのは、顧客に推奨サービスを提案する施策の高度化だ。「データ整備・基礎分析」「モデル構築」「施策適用/効果見極め」のステップで進められた。

 だが、データは点在し、はじめて分析業務に関わるメンバーばかり。どのようにして、業務と組織を作っていったのだろうか。

施策の高度化に向けて、これだけのステップを踏む必要があったという
施策の高度化に向けて、これだけのステップを踏む必要があったという

 はじめに、ARISE analyticsも含めたチームメンバーらは、業務担当者たちからヒアリングし、仮説を立て、手作業で集めてきたデータでクイックに機械学習モデルを構築。そして、目的変数への寄与度を見ながら、優先すべきデータに目星をつけていった。そして、プロファイル整備とモデルチューニングを並行しながら、顧客スコアを作成して施策につなげた。

 そうして、フィードバックループを回していくうちに、重要因子が浮かび上がる。すると、顧客に合った料金プランの提案など施策の精度が向上し、顧客満足度の高まりが数値で見えてきたという。

 「やみくもにデータを集めればよいわけではありません。ARISE analyticsのノウハウによって、短期間でお客様の理解、施策の高度化、効果の見極めを実施できたことが、最初のステップでの成功要因でした」(水谷氏)

 次に取り組んだのは、ダイレクトメール(DM)やWeb広告、テレマーケティングといった顧客接点の最適化。「どのタイミングで、どの方法でお客様とコミュニケーションをとるのが適切か?」を、施策高度化の手法と同じように数値化し、改善を繰り返している。「お客様センターの担当者や営業など、社内のあらゆる人たちと協力してきた」と水谷氏。

 この2年の取り組みの結果、UQモバイルの累計契約数は200万件を突破し、格安SIMカードサービスの顧客満足度調査(J.D.パワー調べ)で、2年連続総合満足度第1位を受賞した。また、継続利用の顧客が増え、マーケティングの各指標も向上しているという。

組織全体をレベルアップするAI人材の育成方法

 続いては、水谷氏が「非常に有効だった」と語ったAI人材の育成について。UQコミュニケーションズは、ARISE analytics支援のもと、データアナリティクス業務の内製化をゴールとした、分析スキルの習得と分析環境の整備を両立する体制を構築。現状のビジネス課題や、リアルな顧客データを教材にした実践的な研修が特徴で、現役のデータサイエンティストが指導する。

 さらに、AI人材をエントリーレベルとアドバンスドレベルにわけ、それぞれに必要なスキルを定義した。エントリーレベルは、マーケターや営業を対象とし、データ分析を施策に活かす力を得ることが目標。アドバンスドレベルは、2ヵ月の研修で、自らプログラムを書いて分析を行う“データサイエンティスト”を目指す。また、外部の専門家と社内をつなぐ人材としても期待されている。

 すべてのメンバーが、データサイエンティストである必要はない。一方で、プロフェッショナルにすべてお任せでは、組織が自立できない。「ARISE analyticsと一緒に構築した研修体制で、業務に適した分析スキルを持った人材を短期間で育成でき、組織全体がレベルアップした」と、水谷氏は自信を見せた。

 そして現在は、データ分析の内製化を目指したソリューション開発が進んでいる。分析担当者と業務担当者がともに活用できる設計が特徴で、分析のブラックボックス化を防ぐ。スピーディーで質の高い分析と、業務担当者の施策実行、そしてシームレスなフィードバックグループの実現に向けて、UQとARISE analyticsの協力体制は続いている。

「AI万能説」に騙されない。マーケターの視点が生きるAIとの向き合い方

 セッションの終盤からは、ARISE analyticsの桝本氏が登場。いまだAIについてまわる誤解を解きながら、マーケティング業務にAIを活用するポイントをまとめた。

株式会社ARISE analytics Marketing Solution Division Director
アクセンチュア株式会社 ビジネス コンサルティング本部 AIグループ シニア・マネジャー 桝本 智志氏

 例に挙げたのは、UQの事例にも登場した施策の高度化だ。フェーズ1「データ収集・整備」では、業務知見のデータベース化を行うが、一部のクライアントからは「AIは万能で即効性がある」「最新のモデルで分析してほしい」などの、過度な期待や依頼が根強いと桝本氏は語った。

 同氏は「小骨を取り除いたデータ」と例えたが、業務メンバーとコミュニケーションを取りながら、仮説を立て、実務に必要なデータベースの作成はスキップできない。データのクレンジングがAIの予測精度を上げ、人の解釈性も高めるため、スピードを保ちながら、関係者間で目線を揃えた取り組みが必要だ。

 フェーズ2「予測スコアの整備」では、何を予測するかが重要となる。しかし、「とりあえずAIを使ってみよう」の声は多いという。

 「顧客満足度を上げたいのか、マーケティングチャネルの最適化なのか、何に注目してAIを活用するかは、まさにマーケターが意思決定すべきところです」(桝本氏)

 分析担当者の采配やAIに頼りきることなく、しっかりとモデルやスコアの意味を捉えながら、上流の施策設計に生かしていく姿勢が求められる。

 そして、フェーズ3の「施策に寄りそった高度化」では、1歩ずつ前に進む意識が必要だ。AIは導入してすぐに成果が出るものではない。特にマーケティングにおいては「誰に・いつ・どのような施策を行うか」とモデルのチューニングポイントが多く、最適化に時間がかかる。「正しい効果検証とPDCAを回す仕組み化・自動化を優先しましょう」と桝本氏は語った。

AI活用をスケールする、文化の形成

 続いて桝本氏は、AI活用を戦略的にスケールするポイントを挙げた。

 マーケティング領域のAI活用を進めていくと、業務、IT技術、組織・人材の壁にぶつかるときがあるという。桝本氏は、企業を変革する6つの要素を表すフレームワークのSix-bubblesを例に、「企業はAI活用を前提とした、業務、IT、組織、評価制度に変え、最終的には文化を作っていく必要がある」と話す。

 Six-bubbles は、Strategy intent、Business Process、Behavior/Culture、IT、Organization、Human Resourceの6つから成り立つ
Six-bubblesは、Strategy intent、Business Process、Behavior/Culture、
IT、Organization、Human Resourceの6つから成り立つ

 実際にUQモバイルでは、2018年のプロジェクトスタートから、業務プロセスの見直しを行ってきている。また、業務担当者がデータを活用できる環境作りだけでなく、経営層のコミットを得た上で、組織を横断する取り組みを実現した。そして、人材育成のプログラムも改善が続いている。

 「自社にどのようなAI人材が必要かを定義しましょう。そして、組織にどう配置するか、評価軸はどうするか、さらに業務も準備します。これまでなかった職種を受け入れ、文化を作りながら、戦略を実現していくのです。このような観点が、AI活用をスケールするためには重要です」(桝本氏)

 最後に桝本氏は今回のセッションの内容をまとめた。AI活用のファーストステップは、社内のデータを選別して整備し、新しい取り組みをはじめるコンセンサスを取ること。そしてデータ分析のサイクルを回しながら、データのガバナンス面も整備する。

 次第にAI活用の基盤ができ、拡大のフェーズに入ったら、ソリューションの導入を検討していく。そして、組織として取り組まなければ、AI活用の定着はおろか、スケールはしない。一方で、ビジョンだけでも、足元に閉じたアクションを繰り返すだけでも、AI活用は限定的になってしまう。桝本氏によれば、「ビジョンとアクションの両面で進めることが大事」だという。

 KDDIとの取り組みから得た実績と、アクセンチュアの持つグローバルな知見やノウハウを融合させ、データ分析・AIにより企業の課題を解決するARISE analytics。「今後も、スピードと品質を担保しながら、大規模なエンタープライズのAI活用を支援していく」と桝本氏は語り、セッションを締めくくった。

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この記事の著者

マチコマキ(マチコマキ)

広告営業&WEBディレクター出身のビジネスライター。専門は、BtoBプロダクトの導入事例や、広告、デジタルマーケティング。オウンドメディア編集長業務、コンテンツマーケティング支援やUXライティングなど、文章にまつわる仕事に幅広く関わる。ポートフォリオはこちらをご参考ください。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/10/14 11:00 https://markezine.jp/article/detail/34440