企画に散りばめた「ファン化促進」の仕組み
国民投票企画を実施したのは、商品を顧客のニーズに合わせて進化させるためだけではなかった。「ブランドのファンになっていただける方を増やしたい」という狙いもあったという。
池ノ上氏は、顧客が商品を認知、購入し、さらにリピートしてファン化に至るまでの過程で、重要なポイントが3つあると語る。
1つは、「自分のものだと認識してもらう」こと。「亀田の柿の種」の認知度は高いが、知ってもらっているだけでは手を伸ばしてもらえない。自分に向けられた商品として認識してもらえなければ、選択肢の中に入れないのだ。
そのため、今回の国民投票でも自分ごと化を意識していたという。自分の好みの比率を発信してもらう企画を通じて、老若男女、ヘビーユーザーからノンユーザーまで企画に参加してもらうことで「自分にとっての亀田の柿の種とは」を認識してもらうことに成功した。
2つ目は、「ブランドの価値を意識してもらう」こと。情報化社会の現代においては、メーカーからブランドの価値を一方的に発信しているだけでは消費者には伝わらない。「柿の種とピーナッツの黄金バランスが美味しさの秘密!」とどれだけ発信しても、そう簡単には認識してもらえない。
「今回の企画をきっかけに、これまでなんとなく食べていただいていた方にも、ベストバランスはどのぐらいなのかなという点を意識しながら食べてもらえたと思います」(池ノ上氏)

長期的に楽しさを共有、より記憶に刻まれる商品に
ファン化を促進するためのポイント3つ目は、「記憶に残る」ことだ。顧客の楽しい思い出にブランドが寄り添えれば、思い出と共にブランド自体も記憶に残り、ブランドを深く好きになるきっかけとなる。消費者の思い出に残るようなブランドになれるかどうかも、ブランドのファン化にあたって非常に重要なポイントだという。
国民投票企画における記憶に残るための工夫は、投票から結果だけを発表するだけの短期的なキャンペーンに終わらなかったことだ。
2019年10月に投票キャンペーンを開始し、同年12月に投票結果を発表。2020年1月には「比率見直し委員会」を設置し、実際に柿の種とピーナッツの比率を変更するかどうか、検討の過程を公開した。リニューアルを決定した後は、2020年3月に「6:4解散宣言」を発表し、2020年5月に「7:3新黄金バランス誕生」のリニューアルを実施。SNSやWebサイトでの発信だけでなく、パッケージにもリニューアルの過程を記載して実際の購入者に告知した。
参加するハードルが低く、また嗜好によって意見が分かれる企画にすることで、家族や友人と、あるいはSNS上の話題として、楽しんでもらいやすくなる。また、自分が参加した投票企画の結果や、その後どうリニューアルに反映されたのかを定期的に発信することで、単なるキャンペーンだけでなく記憶に残り思い出に醸成されることを意識したという。
国民投票企画は、実際に多くのファンを獲得できたようだ。2019年10月~11月のキャンペーン期間には、同ブランドにおいて過去同期間で最高の売上を達成。2020年5月のリニューアル時には、購入者数、購入者一人あたりの購入個数ともに昨年比で大幅に拡大したという。
「亀田製菓は、お客様に楽しみや幸せを提供したいという想いで創業した企業で、今もその気持は変わっていません。今後も、その想いを大切にしながら、お客様とともにブランドを創り上げていきたいと思います」(池ノ上氏)