3つの方向性で代替技術を検証
――既存のお客様との関係を深めるという戦略の根本は変わらない、ということですね。
はい。もう少し細かい施策レベルの話に関しても、二つの理由から、それほど懸念はしていません。一つは、そもそもリターゲティングのような広告メニューに予算をそれほど分厚く取っていないからです。ディノス・セシールは扱っている商材カテゴリが多岐にわたるので、コンバージョンに近い、ラストタッチ指標で評価ができるサーチ関連広告だけでも、目標の効率内で多くの予算を消化することができています。予算がより潤沢にあれば、もちろんコンバージョン手前のお客様だけではなく、もっと購買ファネルの上のほうの、まだ認知していただけていないお客様に対して訴求したりということも行うべきなのですが……。
もう一つは、いわゆる代替技術の導入です。この流れが来ることは、すでに数年前から見えていたので、ある程度は対策のPoCを回したりしていました。現在は主に3つの方向性を考えています。
(1)WebコンテンツのAI解析技術
(2)ゼロパーティデータ
(3)情報銀行
(1)については、スタートアップ企業のスリーアイズさんに出資しています。一般知識やトレンド、それらが持つ「意味」を理解した上で自然言語解析を行うAI技術を持っている会社で、それを活かしたソリューションの一つとして、コンテンツマッチングを行うネット広告配信サービス「Candy」を提供しています。Web上の記事内に含まれるキーワードに関連する商品を紐付けるような広告技術は、10年以上前からありますが、前後の「文脈」まで理解して出し分けるというのは、これまでの技術では難しかったように感じます。
これはスリーアイズさんがよく使う事例なのですが、たとえダイエットという文字を含む記事であったとしても、前後の文脈が「モテたい」ということなのか、それとも「病気を予防したい」ということなのかによって、消費者ニーズは全然違ってきます。この意味の解析および適切な商材のマッチングをAIでやろうというのが、彼らの発想です。スリーアイズさんが持つコアテクノロジー自体は広告の世界だけではなく、いろいろなシーンで応用が効く技術なのではないかと期待しています。
――なるほど。2つ目のゼロパーティデータについても教えてください。
ゼロパーティデータは、価値交換を前提に、なんらかのインセンティブとセットにした上で顧客からデータを収集しサービス向上に使わせてもらう、という発想です。Cookieが問題視されたのは、「データが利用されていることをお客様が十分に認識できていない」「ボックスにチェックを付けてもらうパーミッションでは足りない」ということの表れだと思っています。そうではなく、しっかりと顧客とのリレーションを前提とした上でデータを収集・利活用することが求められています。
ゼロパーティデータの取得・活用に関しては、お客様との強固なリレーションシップがある会社ほど強い。その意味では、私たちのように直接エンドのお客様とつながる小売企業向きの概念だと思います。たとえばメーカーさんが流通を挟まずに直接ゼロパーティを大量に保有できるとすると、それこそ我々の価値はほとんどなくなってしまうところなのですが、顧客接点をどう活かしていくかということに関してはノウハウが要りますし、販売チャネルやサポート体制といった様々なビジネスプラットフォームも必要になる。我々には、そこに長く取り組んできた強みがあります。
3つ目の情報銀行も、生活者に同意を得た上でデータを取得・活用していく点ではゼロパーティデータと同じ発想なのですが、データにリーチするまでの過程が異なります。同意を得られたデータを集めてプラットフォームを作り、事業者がデータの利用料を払うことによって、活用できるようになるというのが情報銀行の概要です。
ディノス・セシールでは、この情報銀行とゼロパーティデータの両方を活用していく可能性がありそうだと考えています。もちろん自社でユニークにゼロパーティデータを取得できれば、それは直接差別化につながりますし、そうではないお客様、一切接点が持てていないお客様に関しては、情報銀行のデータを参照することによって、今までよりも手厚いサービスができる可能性もあります。どちらも今、いろいろと検証しているところですね。