データ活用を取り巻く環境変化に伴い、ユーザー規約を改訂
有園:今回は、プラットフォーマーにおける個人情報の扱いをテーマに、LINEの菅野さんを尋ねました。菅野さんは、自身が設立したファイブが2017年にLINEグループ傘下となり、その後LINEの事業に参画されています。まず、LINEでの業務をうかがえますか?
菅野:LINEはカンパニー制を取っていまして、私が所属するマーケティングソリューションカンパニーでは、広告主企業や代理店と相対して広告マーケティング事業を担っています。私が所属する組織は社内でDisplay Sales Planning室と呼ばれており、開発と営業の間に立って広告プロダクトの企画をしたり、市場展開時のサポートをしたりもしています。
有園:完全にBtoBの部門ということですね。昨今、欧州のGDPR(General Data Protection Regulation)や、米カリフォルニア州のCCPA(California Consumer Privacy Act)など、個人データに関する法規制が相次いでいます。GDPRは居住地を問わずヨーロッパ人の個人データが対象になるので、海外のユーザーも多いLINEも準拠すべき立場かと思います。どのようなスタンスでいるのか、うかがえますか?
菅野:LINEは特にタイ、台湾などで海外ユーザーの多いサービスですので、GDPRに限らず各国のデータ保護法令に適切に対応しています。私もLINEグループに入って驚いたのですが、元々メッセージアプリなので、「ここまでやっているのか」と思うほど、現場も経営側もプライバシー保護に対する意識を強く持ち、事業運営に取り組んでいます。この傾向は、2016年の上場のタイミングでより一層強化されています。
「通信の秘密」に守られているLINEのメッセージ
有園:今、一般生活者も個人データの扱いを意識するようになって、LINEはともすると「メッセージの中身を読まれているのでは」と思われることもあるのでは?
菅野:一般の方々の間には一時期そうした声もありましたが、前提としてLINE上の通話やメッセージの内容などは「通信の秘密」として、特に厳密な保護の対象としています。また、LINE上のユーザー同士の通話やテキストメッセージの内容は原則暗号化されており、LINEの全サービスにおいて閲覧も利用もできない仕組みとなっています。GDPRの議論が起こる前から、メッセージアプリとして事業拡大をする中で、かなり先行して社会における立ち位置とあるべき姿を見据えて厳格にデータを扱ってきた経緯があります。
有園:なるほど。メッセージアプリだからというのは、考えてみれば「通信の秘密」の法律を順守する立場であるとはっきり認識されている、ということですね。この法律は、どんな些細なやり取りでも、郵便物などの個人間のメッセージを勝手に開けてはいけないという内容ですが、LINEも通信上サーバーは経由するが見てはいないと。
菅野:そうです。メッセージのやりとりを読み込んだり解析することは原則していませんし、それを事業に活用することももちろんできません。逆に広告事業を預かる立場では、「こういうデータ分析ができるのでは?」と企業からの期待を感じますが、BtoCのサービス側とは厳しく一線が引かれています。
ただ、サービスと広告事業に隔たりをあえて設けることは、ユーザーの利益を第一に考え、ガバナンスを効かせるべき領域という発想と理解しています。一方で、トークデータ以外にも大量のデータアセットが存在することはたしかで、プライバシーを保護した上でそれらのデータを活かせば、非常に大規模な属性分析やマーケティングインサイトが得られます。実際、広告における属性の推定や類似ユーザーの拡張などの精度は非常に高いものがあります。