ユーザビリティを高める「顧客のストーリーの理解」
――「ユーザビリティの改善」「パーソナライズの高度化」と2つのキーワードをもとに、必要な対策を一部お話しいただきました。ここからは、「ユーザビリティの改善」を実現するために、具体的に何をすべきかうかがいます。
石﨑:より良いユーザビリティを実現するために重要なのは、顧客のペルソナやカスタマージャーニーなど、顧客のストーリーを理解することだと考えています。
とあるファストフードチェーン店では、10数個のペルソナを用意し、それぞれのカスタマージャーニーを設計してアプローチを変えていました。ファストフードチェーンという1つのお店でもそれだけ緻密なストーリーを設計しています。かなり極端な例ですが、こうした顧客のストーリーの理解は丁寧に行なっていくべきだと思います。
一方、顧客の理解がないまま購買を促す施策はユーザビリティを損ねます。パーソナライズにも絡みますが、これまでのレコメンド機能のほとんどは、いわば企業側からの押し付けでした。
顧客の視点で本当に必要なレコメンド機能とは、ペインを解決する品を提案してくれることです。企業は「これを買った人は、どういったペインを抱えていて、何を買うことでペインを解決しようと思っていたのか」まで考えるべきで、売上数字やコンバージョンの数を追って最適化すると、押し付けが加速します。
原:つまるところ、ユーザビリティとは顧客がECや実店舗などのチャネル関係なく、心地良いタイミングで、欲しい商品と出会うことです。
OMOやオムニチャネルなど、オンラインとオフラインの行き来を前提に心地良い体験を提供しようという動きがありますが、それらもシステマチックに進めるのではなく、顧客のストーリーを踏まえて進められるとより良いユーザビリティが実現できると思います。
データを活用し、顧客の「欲しい商品にたまたま出会う」を叶える
――パーソナライズについてはいかがでしょうか?
石﨑:デジタル技術が普及する前から、パーソナライズは重要視されていました。しかし、コミュニケーションコストがかかりすぎることから、マスコミュニケーションが主流とならざるを得ませんでした。
ところが現代ではあらゆるデータが取得でき、AIなども活用すれば低いコミュニケーションコストでパーソナライズをできるようになっています。
森:石﨑の言う通り、高度なパーソナライズを実現できる環境は整いつつあります。ここで重要なのは、商品を購入した顧客の全体の特徴を抽象化したペルソナを作ることです。
パーソナライズとは一人ひとりの顧客と向き合い理解し、一人ひとりに合った提案をすることですが、ペルソナと突合することで、買っている顧客が想像通りかの判断ができますし、より高度なパーソナライズが実現可能になります。
石﨑:顧客が一番価値を感じるのは「欲しい商品にたまたま出会った瞬間」だと言われています。つまりほとんどの場合、顧客の頭の中にその出会いのイメージはありません。
そのため、ほかのユーザーの特性を抽象化したペルソナを参考に、本人すら気がついていないニーズを考える必要があるのです。
原:この商品を買う顧客群はこういうペインを持っていて、そのペインは「この顧客にも当てはまりそうだ」と考えられるようになるというわけですね。
パーソナライズに求められる理解の深さは、商材や業界、会社が何を大切にしているかによって変わってきそうです。