まずお客を理解すること。手法の選択はそれからだ。
「このWebサイトは、3年ぐらい前に自分で作ったものなんですよ」と語るのは、八光社の三代目、神林仁専務だ。八光社が得意としているのは、印刷物の小分け運送。しかも「キャンペーンの用紙を全国拠点に小分けして、明日までに発送したい」といったキツイ仕事が大好物らしい。なぜなら「キツイ仕事を引き受けて成功させたらこっちのもの。お客は怖くて業者を変えられなくなる。面倒な仕事ほど工夫して利幅を伸ばせる余地も大きい」からだという。

この八光社、最近、ネット経由の集客が伸びているという。「新規顧客の開拓ルートとして、クチコミとWebの比率がついに逆転しました。集客が好調なので、利益率が悪い仕事はどんどん整理しています」と神林専務。
でも八光社のWebサイトをひとめ見てわかるとおり、正直言ってたいしたことはない。なんでそんなに客が集まるのか。神林専務に尋ねたところ、「キーワード広告に力をいれたおかげです」という答が返ってきた。
「うちの顧客は、主に広告・企画会社や、大手企業で発送リストを整理するような部署の人です。そういう人は、発送業者をネットで探すんじゃないかと思ったんです」
なるほど、忙しい担当者なら手軽に調べられるネットを使うであろう。
「さっそく自分でGoogleやYahoo!を使い、発送業者を検索してみました。すると、ヒットしたページを見ても、実際にどこまで引き受けてもらえるのか、費用がいくらぐらいかかるのか、肝心なことがわかりません。そもそも、まともなホームページを用意している会社すらほとんありませんでした」
それは意外。だがチャンスでもある。
「ええ。そこで自分が客なら知りたいと思う情報を載せたWebページを用意し、当時話題になっていたキーワード広告であらゆるキーワードに最高額を入れてみました。運送は近所の業者に頼みたいものなので、“○○発送 東京”のように地名を入れたキーワードにも片っ端から入札したんですよ」
このように、神林専務の答は常に具体的である。ここで語っているキーワード広告で集客する手法は、それ自体に目新しさはない。だが理論先行のWebマーケティングマニアと神林専務の違い―それは自分の商品を「いつ・誰が・どんな風に必要とするか・ほしくなるか」という商売の基本を認識できているかいないかである。これは「お客が財布を開くときの気持ちが想像できる」とも言い換えられる。まずお客を理解すること。手法の選択はそれからである。
理論先行のWebマーケティングの落とし穴
ここで冒頭で紹介した、マーケティング理論に詳しい相談者について、もう一度考えてみよう。私に相談を持ちかけたその人は、会社員である。会社員マーケターの場合、内勤が多く、顧客と接する機会が少ない。だから商売の基本事項である、顧客についての知識がなかなか深まらない。ゆえに理論が現実に根ざさない。これは会社員マーケターがはまりやすい落とし穴である。
たいていの企業には、マーケティング担当者が「顧客についての知識」を深めるための体系的なしくみが備わっていない。「顧客についての知識」は商売を行う上できわめて重要な知識であるのにも関わらず、だ。これはゆゆしき問題である。
したがって、会社員でありながらマーケティング力(販売力)を強化しようと志すマーケターは、顧客に関する一次情報を収集する手段を自ら調達しなければならない。(会社員時代は内勤Webマスターだった私が、今、カスタマ・ストーリー・プロデューサーとして独立しているのも、そうした動きを経てのことである)
再び、八光社のWebサイトに目を向けてみよう。トップページには、電話番号が「03-3668-8500」と大きく載せてある。

これを見た私は、神林専務に「電話番号は、0120のフリーダイヤルにした方が問い合わせが増えるかもしれませんね。いや、法人相手のビジネスならフリーダイヤル料金無料はアピール材料にはならないか…」と言ったところ、
「村中さん、電話番号は03表示の方がいいんですよ。お客さんは、荷物の発送は自分の近所にある運送会社に頼みたいものなんです。電話番号が03表示にしてあれば、東京のお客様には近くの会社だとすぐわかるし、大阪のお客様にも、ここは遠くの会社だからウチには関係ないとすぐに理解してもらえます。結果的にそのほうがお客様に親切になんですよ」
ぴしゃりと返されてしまった。現場密着の思考とはこのことか。いや~、まいりました。 ところでこの八光社の広告好調の要因には、神林専務の顧客密着思考のほかにも3つあると思う。

 
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                
                                 
                                
                                 
              
            