カテゴリーやブランドを意識する瞬間を逃さないため、ブランドが備えるべきもの
購買サイクルが長いカテゴリーは検討前、検討中の期間が長いが故に、消費者は様々な刺激を受け、自社のブランドが無意識からなくなってしまうリスクをはらんでいる。つまり、人々がそのカテゴリーへのアンテナを張る瞬間、もしくはブランドが想起される可能性のある瞬間(= Receptivity)を、常に逃さず捉え続けなければならない。特にそこで重要なのがブランドの独自性(特にベネフィット)であり、検討前から購入に至るすべての施策や活動で独自性が表現されることで、消費者に想起されることを助ける。

購買サイクルが長いものの典型例として、携帯・スマホについて考えてみたい。2年間使い続けることで端末を安く買える通信キャリアのプランがあることで、2年が1つの基準にはなっているものの、買いたくなる、使いたくなる瞬間は様々なところに存在し、その瞬間に常に自社のブランドを想起してもらうことが重要である。
たとえば、知人が新しく携帯を買い替えたのを見て「あれ? 携帯変えた?」と思う瞬間、携帯が繋がりにくい場所にいる時、逆に電車など携帯で話せないけれど話したい時、などなど。携帯を想起する場所は無数に存在している。
たとえば、1年以上同じ携帯を使っている人が、友達の携帯をみて、最近の携帯って薄いな~、と思い、自分も少し欲しくなる。ふと駅で友達を待ちながら携帯を見ている時に、薄くなった携帯が新発売される広告を見て、「そういえば友達の携帯も薄かったな、あれはたしかAという携帯だっけ?」と思い、そろそろ自分の携帯も買い換える時期かと考え始める。その後、家でTVCMを見て「あの時見た携帯だ」と思い、Webで検索して、ブランドサイトでスペックや携帯の動画を見て、これに機種変更しようと思う。最終的に通信キャリアのショップに向かい、店員に話しを聞いて、Webで見た情報を確認し、最終決定する。
それぞれの瞬間で「そういえば」と思ったり、「あの時見た携帯だ」と思い出してもらったりするためには、そこに何らかの気になるポイント、つまり携帯の独自性(特にベネフィット)があり、それがビジュアルやコピーを通じて常に「気になる形」で(できれば感覚的に)表現されている必要がある。上記の例では、「薄さ」を独自性として表現する必要がある。

アドビの製品も本来は長い購買サイクルを要するものなので、何か制作物・クリエイティブを作りたくなる瞬間を協業企業と共に作り出し、その場で常にアドビが存在しているようにしている。
たとえば最近では、HIPHOPアーティストのKOHHと一緒に音楽ビデオを作るコンテストを実施し、ファンが音楽ビデオを作ってみようかなと思う瞬間を創り出したり、eSportsのLeague Of Legendsと一緒に、新しいゲームのキャラクターを現実世界で表現するコンテストを実施し、ゲームファンがキャラクターを自分なりのデザインにしてみようと思う瞬間を創り出したり、といった取り組みを行っている。このように、購買サイクルが長い場合、検討前と検討から購買のフェーズごとに、パートナーシップも含めたメディアや投資配分、また買いたくなる瞬間や場面に、常に少量でも露出させ続けるかどうかなども、考慮する必要がある。
購買サイクルの視点で考える、サブスクのユニークさ
昨今社会に浸透し始めたサブスクリプションという支払形態は、購買サイクルという観点で見ると興味深いポジションにある。今まで購買サイクルが長く価格を高く設定することでしか提供できなかったものを、毎月の金額として支払えるようにすることで低価格にし、検討期間を短縮させているからである。
ただし、基本的に継続利用することを前提としたファイナンシャルモデルとなっているため、ユーザーが1ヵ月で使うことをやめてしまうと、利益が得られないリスクをはらんでいる。オンラインサービスであれば、ユーザーがお金を出して使い続けるベネフィットをトライアルですぐに体験できるし、逆に解約もできるので、その後も使い続ける可能性の高い人に登録してもらうことが重要になる。
そのサービス設計においては、行動経済学が力を発揮する。たとえば「3ヵ月無料」よりも、「3ヵ月100円」のほうがお金を払う分、初めからエンゲージされたユーザーが獲得でき、リテンションが高くなる傾向がある。またそこでは、価格パターンを変更した場合のユーザー行動のテストなどを、スピーディーに行うことができるシステムも必須となる。トライアルのユーザーデータを基に、継続する確度の高い見込みユーザーを予測し、より使い続けてくれるユーザーを始めから取り込むデジタル広告を配信するといったアプローチも、様々なデータベースをDMPで連携することで可能になる。
アドビも、以前は単体で高額商品として販売していたPhotoshopやIllustratorなどの製品をまとめてパッケージしたCreative Suiteを販売していたが、このパッケージをクラウド上で使えるようにしたAdobe Creative Cloud をサブスクリプションで提供している。月額制にすることで、より多くの人にトライしてもらえるようになり、まさに今、継続して使い続けてもらうユーザーを獲得するために、いろいろな試行錯誤をしている最中だ。