※本記事は、2021年2月25日刊行の定期誌『MarkeZine』62号に掲載したものです。
D2Cの本質は顧客と向き合うこと
株式会社TO NINE 共同代表取締役 COO
吉岡芳明(よしおか・よしあき)氏
サイバーエージェントグループにてソーシャルゲーム事業など事業を担当。2016年からTO NINEに参画。支援事業として戦略パートナーとして100社を超えるD2Cブランドをサポート。共同事業として2017年にスマイルズらと合弁会社「二重」を設立し、シンプルな結婚式を提案する“結婚指輪ブランド“「iwaigami」を発表。自社事業として2020年6月に“Less is beauty”をコンセプトにした「SENN」をリリース。
――D2Cが流行のフェーズに入り、様々な意味合いが語られています。あらためて、吉岡さんが考える「D2Cとは何か?」を教えてください。
最近では、ECサイトやグロースハック、ブランディングなど、D2Cの手段の話ばかりが注目されていると感じますが、D2Cの本質は、言葉の通りDirect to Consumer、つまりお客様と直接繋がり、向き合うことだと考えています。お客様と繋がり、理解するために、ECサイトやSNSなどのデジタル、店舗と、様々な手段があるだけのこと。実際に、TO NINEがプロデュースしているブランドには、ECサイトを持たないケースもあります。でも、店舗やSNSでお客様としっかり繋がっているから、D2Cなのです。
「データがあれば、お客様を理解できる」と思われている方も多いと思います。当然、定量・定性ともにデータは大切ですが、データだけではお客様の心理分析は難しいものです。企業にとっては同じコンバージョンでも、コンバージョンへ至る背景はお客様ごとに異なりますし、それを数値だけで推し量ることはできません。店頭接客ならば、お客様の声を直接聞けますが、マネジメントや経営層はお客様と繋がっていない場合が多く、お客様を理解するソースがデータしかない。だから、初めに設計した仮説のようなペルソナばかりを追って、お客様のニーズと離れたことをしてしまうのです。
D2Cは、「お客様の顔がわかり、声が聞ける関係」という商売の原点に戻ってきた形なのかもしれません。ですから、スタートアップだけでなく、大企業にとっても必要な考え方であり、ビジネススキームです。
SNSのタイムラインから顧客の価値観を知る
――データを分析するだけではなく、データの先に存在する、リアルなお客様を知らなくてはならないと。TO NINEでは、どのようにしてお客様を理解していますか。
お客様を知る方法は様々ですが、自分たちのブランドのSNSのフォロワーをずっと見ているだけでも、お客様への理解が深まりますね。フォロワーのタイムラインを見ると、その方達の価値観までわかります。デジタルは、お客様を深く掘り下げていく上で、とても有効なツールです。たとえば私たちは、ポップアップショップを行うときも、接客したお客様からいただいた声をすべてGoogleフォームに入力して、チーム全員に共有しています。泥臭いことですが、それがD2Cらしい振る舞い方なのです。お客様と繋がれる機会に執着して、フィードバックはすべて吸収し、ビジネスへ生かす。これが、D2Cブランドとしてのマインドセットです。
――売ることがゴールではなく、買わなかったお客様のことも理解していくと。
そうです。さらに、マーケターや接客スタッフだけでなく、ブランドに関わるすべての人たちが、お客様と向き合う姿勢、心がけを持っています。お客様インタビューには、物流担当者やデザイナーと、いろいろなポジションのメンバーも参加していますね。すると、「お客様から片付けが大変と聞いたので、梱包資材を改善しましょう」「サイトデザインを見直したい」など、みんなが主体的に動き始めます。全員がビジネスを自分ごと化する組織作りは、D2Cに欠かせません。こうして、お客様を理解して、ペルソナをアップデートしていきます。初期のペルソナは、どうしてもブランドの主観が入ります。アップデートだけでなく、パターン数も増やし、お客様を理解したメッセージ発信やサービス開発に繋げていくのです。