パーパスを体現したコンセプトだけでは商品は売れない?
パーパスドリブンな新規事業づくりは、地域のこども食堂の協力が得られたおかげで、まずは最低限の機能を持つプロトタイプを高速で作りながら顧客の意見を取り入れる、リーン・スタートアップの手法で始められました。
基本的に食品はまず、味や食感、香りなどが自分の好みに合うか、という点が最も重視されます。そのうえで、栄養やカロリーといった機能価値があり、価格や販売チャネルなどの受け入れ性、ネーミングやパッケージ、ブランドイメージ、コンセプトといったものが総合的に評価され、購入の決め手になるという構造であることが多いと言われています。
まずは試作品を通じてお客さんと対話し、モノづくりやコンセプトにフィードバックしていくという方法は、みらい製菓の創業者が行っていた、顧客との対話というプロセスの再現といえそうです。
ただし、創業時の個人店だったみらい製菓と今の企業化したみらい製菓で大きく違う点は、企業というチームで動く仕事の場合、個人の信条や考え方を超えて多くの人を巻き込み、総合力を発揮する必要があるという点ではないでしょうか。
そのためにパーパス(大義)が共有されていることはとても重要ですが、ビジネスの現場では常に「立派なパーパスがあるのはいいけど、それで本当に売れるのか?」ということが問われます。今回のエピソードでも開発部のメンバーがそんなことを口にしていましたが、実際に現場では非常によく聞く(言われる)疑問だと思います。
そして、社会によいことをしよう、というパーパスを体現したコンセプト、たとえば環境に良いものです、というような訴求を含むコンセプトを調査すると、非常に受け入れ性が高いということがよく起こります。調査結果を信じて実際にモノを世に出してみると、思っていたほど売れない……。これは筆者自身も業務で何度か経験しています。
フェアトレードなど、社会にとって良いとされているモノを買う、ごみを減らすことを心掛けるといった消費行動は「エシカル消費」とも呼ばれています。日本の消費者庁が2020年に実施した調査(PDF)によると、「エシカル消費」について全体で59.1%の人が興味を持っており、さらに実践していると回答した人は36%程度ということです。
この数値を高いとみるか低いとみるかは解釈次第ですが、一般的には「エコ」や「エシカル」に関連する事柄は、調査すると受け入れ性が高く出ることが多いように思います。
実際、世の中に良いことは表立って否定しにくいところがあり、聞かれるとつい興味があると答えてしまうのかもしれません。人はある程度の関係性がない相手には本音を出さない、出せないということはよくあります。
そういう意味では顧客など、本音を聞かせてくれるステークホルダーとの関係性を構築すること、そして常に率直な意見交換を行える場を作り、ビジネスへのフィードバックをし続けることは、今後はどの業界でも重要さを増していくのではないかと思います。
さて、新規事業開発チームが投入したプロトタイプ第一号の受け入れ度合いは残念ながら良好とはいえない状況ですが、ここでどのような改善を行えるか、そのプロセスが問われます。顧客の本音は発した言葉だけではなく、表情や行動など、いろいろなところに現れてきます。
次回、チームはターゲットインサイトを捉えて状況を改善していくことができるのか。パーパスドリブンな新規事業づくりへの道は平たんではなく、これからも試行錯誤が必要なようです。