購買ファネルの課題は「認知→詳細理解」のステップにある
植木:スマートニュースの植木です。今日はビデオリサーチでメディアごとの態度変容の違いを分析する「メディア・エンゲージメント」の研究をしている吉田さんと、当社のインダストリーアナリストの磯貝の3人で議論を進めていきます(※新型コロナウイルス対策を十分に行い鼎談を実施しました)。
SmartNewsは2019年8月末の時点で日米合算MAUが2,000万人以上、2019年10月末時点でダウンロード数は5,000万を突破しています。おかげさまで多くの広告主からご出稿をいただいておりますが、この頃「SmartNewsの広告で購入されたユーザーはリピート率が高い」と言われることが増えています。この点、磯貝さん、吉田さんはどのように捉えていますか?
磯貝:広告主の関心が、目先の新規顧客の獲得だけでなく、長期的な視点での「LTV」へ向き始めていることを強く感じます。
媒体のユーザー特性や、ユーザーの利用モード、媒体がもつ文脈によって、コミュニケーションの質や特性は大きく異なります。たとえば、インパクト系の広告で獲得した認知と、記事広告などで深く獲得した認知では、その性質が大きく異なるはずです。そういった差がリピート率にまで影響したのかもしれません。
吉田:メディア・エンゲージメントの研究では、メディアによって獲得できるブランド認知の性質は異なる(同じ広告でもどのようなメディアで接触したのかによって効果は違う)という知見が得られています。こうした観点でメディアを比較したいという広告主様のニーズも高まっていますね。
磯貝:認知の性質の違いで、その後の効果は変わるものなのでしょうか?
吉田:はい。一概に認知といっても、ブランドの視点では違います。こちらは弊社の生活者データACR/exの、主要な399のコスメブランドを対象にしたブランドステータス結果です。
吉田:1つひとつのドットは各ブランドの数値を表しています。縦軸はすべて「購入・利用率」で、それぞれ横軸の指標を変えています。青いグラフは「ブランド名の認知率」、赤のグラフは「ブランドの詳細理解率」、緑のグラフは「ブランドの購入意向率」です。破線はそれぞれの指標と購入・利用率との相関関係を表しています。
磯貝:破線のグラフ(相関直線)の角度は、ファネルが進むと大きくなっていますね。これは購買ファネルが進むにつれて離脱が起きるからでしょう。
最初の「認知(青)」から「詳細理解(赤)」までの離脱が大きいのが意外です。一方、「詳細理解(赤)」から「購入意向(緑)」までの離脱は少なく、グラフもほぼ同じですね。
吉田:まさにそこが重要なポイントです。社名やブランド名のみの「浅い認知」を獲得しても利用までつながりにくい一方、その一歩先の「詳細理解」を達成できれば一気に購入・利用につながるのです。同じ認知でも、「詳細理解」は「購入意向」に近い、ブランドファネル上でより深い指標だということがわかります。
植木:破線の相関直線の角度の違いを見ると、「認知」と「詳細理解」の違いが明らかで、ハードルの高さがわかりやすいですね。この傾向はスキンケア以外の業界でも同じなのでしょうか?
吉田:業界によって多少の傾向の違いはありますが、ACR/exの結果を見るとほぼ同様と言えます。
「詳細理解」に注目して、主要アプリの広告を比べてみると?
植木:購買ファネルにおける大きな壁は「詳細理解」にあることがわかりました。私たちSmartNewsもそのような価値を提供したいと思っています。
磯貝:SmartNewsは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションのもとで誕生したニュースアプリです。広告も「良質な情報の1つ」としてお届けしていますので、「詳細理解」には強そうなイメージはありますが、データから見えることはありますか?
吉田:データをみると、SmartNewsは実際に「詳細理解」に強みのある媒体と言えそうです。私の研究テーマであるメディア・エンゲージメントをさらに細分化し、メディアではなく、主要アプリサービスのエンゲージメントとして比較したのがこのデータです。
吉田:メディア・エンゲージメント項目の中で、いわゆる「ブランド認知」に該当する項目を主要アプリで比較してみました。同じデジタル広告を出稿した場合でも、アプリによって認知面の効果は異なることが示されています。
植木:SmartNewsはインパクトも強いですが、他媒体と比較すると「商品情報を詳しく知る」や「品質や性能を詳しく知る」のに非常に適していることが読み取れますね。またしっかりと詳細理解まで獲得できるから、商品サービスへも興味を持たせやすいという特徴も、データで示されています。
磯貝:先述の購買ファネルのデータでは、「詳細理解」まで獲得できれば「購入意向」は獲得しやすいことが見えていました。だから「検索」や「購買」への態度変容のスコアも高いのですね。
植木:冒頭で、広告主から「リピート率の高さ」を褒められた話をしましたが、SmartNewsのユーザーは商品やサービスを詳細まで理解してから購入しているので、リピートしやすいと言えそうですね。
吉田:リピートに関しては、厳密には時系列的視点が必要ですが、ACR/exの利用者における購入意向の結果から解釈はできると思います。特定の広告主A社を例に、ヘアケア商品、スキンケア/メイクアップ化粧品のデータを以下に提示しますが、リピートが期待できるという傾向が明確に見えています。
ストレスが少ない広告環境も強み
吉田:よく「認知」や「ミッドファネル」などファネル上の一部分にフォーカスしてメディア特性を考えるのですが、これまでのお話から、SmartNewsは「認知」から「詳細理解」までをシームレスに獲得できる点が非常に特異だと思います。
植木:ユーザーがストレスなく自然に詳細理解しやすい状況を作り出している。これはブランド体験全体を設計する上でも、非常に重要なことですね。
吉田:そうですね、ストレスはデジタル広告の課題と言われていますが、こちらのデータをみると、SmartNewsは広告に対するストレスが非常に低いんです。
吉田:植木さんのおっしゃる通り、コンテンツでブランド体験全体に自然に投入させる仕掛けが功を奏しているのでしょう。
磯貝:UIやUXの設計も含めて、非常にストレスが少ない広告環境と言えます。ストレスなく広告が受容されて、「認知」から「詳細理解」を獲得できる点はブランド体験として最高です。また、購買ファネルを進める際に離脱が少ないという意味では、ROIの観点でも有利ですね。
リーチや想起率に終始しない、広告効果の測定方法を紹介
植木:SmartNewsが購買ファネルの課題である「詳細理解」に強いことがわかりましたが、いざメディアプランニングとなると、認知観点での「インクリメンタルリーチ」や、想起率のみの「ブランドリフト」に終始してしまいがちです。この点について、お二人はどのように考えていますか?
磯貝:リーチは、その先の「広告効果」まで含めて語られると、ROIの向上にもつながりそうです。しかし、共通の指標で数値化できないために提案がしにくいと感じていました。
吉田:実は効果の共通指標化は私の研究分野でして、ブランド広告主や代理店から非常に多くの相談を受けています。統計モデルを作って最適化することもありますが、複雑になりすぎる弱点もあります。そこで私は「広告効果=リーチ力×態度変容力」と定義して、その推計された広告効果をベースに出稿配分を検討することを薦めています。
磯貝:この「態度変容力」とは、どのような指標なのでしょうか?
吉田:「態度変容力」とは、たとえば広告を認知した際にユーザーを「Click」や「購買」へ向かわせる力です。ACR/exでは媒体ごとに「広告をクリックする」や「広告を見て関連サイトを確認する」「商品・サービスの購入経験がある」などの指標をとってますので、KPIに合わせて適切な項目を選び算出します。
植木:SmartNewsは「詳細理解」に強いですから、態度変容力も大きいと言えそうですね。
リーチの先にある“態度変容の最大化”を見据える
植木:たとえばTVCMと組み合わせてプランニングした場合、具体的に予算をどのように配分することが最適なのでしょうか。
磯貝:吉田さんのお話された概念に則って、TVCMとSmartNewsを重複させるプランニングを検討してみました。まずリーチ力については「TVCM=1.00」とした場合「TVCMとSmartNewsの重複利用者=0.12」となります。これは単純に利用者数の割合です。
次に「態度変容力」を見た場合、TVCMとSmartNewsを重複させた場合には、TVCM単独と比べて2.07倍になります。ここで言う「態度変容力」は下記のように、ゴールを「ネット広告click」として「広告への受容度」や「クリックのしやすさ」などを加味して算出しています。その結果、「広告効果(=リーチ力×態度変容力)」から割りもどして8:2という出稿バランスが算出されました。
吉田:今回はTVCMとSmartNewsのみで算出していますが、デジタル広告内での割合も同様に算出することができます。このやり方ですとターゲットが明確な場合もそのターゲットに合わせた可視化ができる点で、様々なクライアント様でご活用いただいています。
磯貝:新型コロナウイルスの影響もあり、広告予算の見直しが求められる企業も多いと思います。このように「広告効果」を軸に「態度変容力」が高い媒体とのバランスを加味してプランニングすれば、効果を担保しつづけることも十分に可能ですね。
植木:今日お話を伺っていて、メディアプランの考え方も、大きく変動する感じがしました。現状はまだ「リーチありき」だと思います。「まずはリーチが取れるメディアを抑えて、残り予算でインクリメンタルリーチを狙える媒体に」というように。しかし、結果的に態度変容しなければ意味がない訳ですので、むしろ「態度変容ありき」で考えるべきですね。
吉田:実際、広告主の間では、TVCMをピンポイントで買い付ける仕組み(Smart AD Sales)も浸透しつつあります。リーチのその先にある態度変容の最大化を見据え、メディアが持つ「ユーザー」や「文脈」を買うという意識が高まっていることを感じます。
もちろん、リーチの重要性が大きく変わることはないと思いますが、考え方として「「態度変容」を狙える媒体を確実に抑えた上で、それを起点としてリーチ系メディアを活用する」という、今までとは異なる視点も非常に重要です。SmartNewsの例のように「重複効果」によってリーチ系メディア自体の効果も増幅する訳ですから。
磯貝:最後に、「態度変容ありき」のプランニングを行う上では、どんな点に留意しないといけないでしょうか?
吉田:各メディアや各コンテンツの態度変容上の強みがあること、それを数字で表現できることが大事だと考えています。メディア・エンゲージメントをさらに進化させてコンテンツ・エンゲージメントという目線で数値化できないか、研究を進めていきたいです。
植木:今回、SmartNewsが有する「詳細理解」という態度変容上の強みが数値化されました。当社で今後、詳細理解を生み出す根拠やメカニズムも含めて可視化し、プランニングにご活用いただきたいと思います。吉田さん、磯貝さん、今日はありがとうございました。