ユーザーは何の「ジョブ」のために、製品を「雇用」するのか?
自社のルーツに立ち戻り、顧客との対話によるリーン開発を試みた新規事業開発チーム。暗礁に乗り上げたように見えた状況を好転させたのは、一人のメンバーのひらめきでした。お客さんのインサイトをつかむのはそう簡単ではなく、エスノグラフィーやワークショップなど様々な手法、そして読み解く視点についても多くの方法論がありますが、今回のひらめきは「ジョブ理論」に例えられています。
モノやサービスを買う理由は、買った人に聞いてみても意外と言語化されないものです。だから観察や考察が大事になるわけですが、お客さんが本当にやりたいこと、片づけたい用事は何かという視点は、いろいろな気付きを与えてくれると思います。
ではお菓子のジョブとは何か。手軽に小腹を満たしたい、長時間のドライブで口が寂しい、仕事で疲れたから気分を挙げたい、会議で話がはずむような準備をしておきたい、など、オケージョンに応じて様々なジョブがありそうです。
そして今回、新規事業チームがあらためて気づいたことは、小さい子供を持つ親がお菓子に期待するジョブは、決して「ご飯の代わり」ではないということでした。
子供は基本的にお菓子が好きなものですが、親としては子供がお菓子ばかり食べていると、すこし不安になってしまう。だからでしょうか、みなさんの中にも「お菓子ばっかり食べないでご飯を食べなさい」と言われた経験、あるいは言った経験がおありかもしれません。
いくらそのお菓子の栄養が豊富だとしても、できれば子供にはちゃんとご飯を食べてほしい。(アレルギーなど体質の問題はもちろん別として)できるだけ好き嫌いなく、喜んでご飯を食べてくれたらうれしい。試食してくれたお客さんの言動の背後にある気持ちに気づき、すばやく対応して評価を確認できたことで、解決の糸口が見えてきました。
この方向転換により結果的に、元々事業のテーマと考えていた「フードロス」という社会課題に対しても、「食材を無駄なく使う」だけでなく「家庭での食べ残しを減らす」という方向からもアプローチできそうです。
日本政府によると日本政府によると国内のフードロス年間612万トンのうち、一般家庭から生じるロスは284万トンにも上り、そのうち57%は食べ残しによるものだそうです。お菓子で培った技術を使って、子供たちがごはんをおいしく食べられるようにすることで結果的に食べ残しを減らせるのであれば、お客さんに喜んでもらえる事業になるかもしれません。
もちろん現時点では、お菓子を料理に使うということは一般的な行動とは言えません。今後いかに世の中の人に行動を変えてもらえるのか、子供たちが喜ぶ料理を手軽に作るという「ジョブ」のために、製品を「雇用」してもらえるか。
それは、パーパスに基づく「ブランド価値」の磨きこみや、モノ自体のクオリティ、効果的なコミュニケーションプランなどからなる、新規事業チームのマーケティング力にかかっていると言えそうです。
新規事業チ―ムは、お菓子メーカーから食品メーカーへと、自社のビジネス領域を広げていくことができるのか。新規事業開発は総力戦です。今回は開発部が(しぶしぶ?)協力してくれたことで、試作品を作ることができましたが、まずはパーパスの力で、いかに社内の関係者を巻き込んでいけるかがカギになるでしょう。