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マスを狙うな、ファンを作れ 「顧客消滅」時代のマーケティングを探る【お薦めの書籍】

 2020年4月、緊急事態宣言によって街から人が消えました。そんな苦境の中でも売り上げを伸ばし続ける企業にはどんな秘訣があるのでしょうか? 本記事ではコロナ禍および今後の人口減少を見据え「人が減り続ける時代」でも負けない新しいマーケティングを解説する書籍をご紹介します。

 2020年4月、緊急事態宣言によって街から人が消えました。そんな苦境の中でも売り上げを伸ばし続ける企業にはどんな秘訣があるのでしょうか? 本記事ではコロナ禍および今後の人口減少を見据え「人が減り続ける時代」でも売り上げを伸ばし続けるための新しいマーケティングを解説する書籍をご紹介します。

時代はもう、元には戻らない

 今回紹介する書籍は、『「顧客消滅」時代のマーケティング ファンから始まる「売れるしくみ」の作り方』(日経BP)。著者は、オラクルひと・しくみ研究所代表の小阪裕司氏です。

『「顧客消滅」時代のマーケティング ファンから始まる「売れるしくみ」の作り方』<br />小阪 裕司(著)PHP研究所 870円+税

『「顧客消滅」時代のマーケティング ファンから始まる「売れるしくみ」の作り方』
小阪 裕司(著)PHP研究所 870円+税

 小阪氏は1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。近年は研究にも注力し、2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ、産官学にまたがり活動されています。年間数多くの講演・講義も行うほか著書も多数出版している方です。

 緊急事態宣言が発令された2020年4月を境に、私たちの生活は大きく変化を遂げました。小阪氏は『仮にワクチンが普及しても(中略)今後は今のような状況が「ニューノーマル」であるとして、その中で生きていくしかない』と言います。この新しい時代において、どのようにビジネスを守り、生き抜くことができるのでしょうか?

緊急事態宣言後人が戻らなかった理由は「無意識の選別」にある

 一度目の緊急事態宣言の後、以前と同じ水準まで顧客が戻ってこない企業が多くありました。それは果たして人々が外に出ることをはばかったから起きた現象なのでしょうか? l小阪氏は「もっと根本的な問題が発生していた」と指摘しました。

 私は以前から、今は「選別消費」が進んでいる時代であると主張してきた。選別消費は、「自分がコスト(お金、時間、労働など)をかけるべきもの、かけるべき先をシビアに選択・選別する消費」のこと。元々、増税や災害などの際にはこの選別消費の意識が高くなるのだが、今回はまさに、コロナによってこの選別消費の意識が大いに高まった。

 これらの行動は無意識に行われていることが多く、商品を購入する必要がないと判断されてしまえば、それらを使っていたことすら忘れてしまいます。

 また生活が大きく変化する中でZOZOTOWNなどの新しいサービスに触れることでそれらの虜となる顧客もいます。しかし、ECサイトやITビジネスに顧客が取られてしまったわけではありません。その理由をひも解く秘密が「モノを買う理由」にあると続けました。

 モノを買うのはそのモノが欲しいわけではなく、そのモノを手に入れることで「心が豊かになる」から。そして、そうしたことに対して、人はお金に糸目をつけない。(中略)

 一方で、「どうしても買わなければならないもの」がある。いわゆる生活必需品で、洗剤やトイレットペーパーなどの日用品がそうだ。これについては、機能さえはたらいてくれればどの商品を買うかにあまりこだわる人はいない。そのため、いわば「コスパがいい」商品が選ばれる。(中略)

 問題は、そのどちらにも属さないものだ。つまり、「心が豊かになるわけではないが、生活必需品でもないもの」。今回、売り上げが戻らなかったものの多くは、このカテゴリーに属するものであった可能性が高い。

 ではどのようにしたら顧客は自社の商品・サービスを選択してくれるのでしょうか?

2020年4月に「前年比150%」を達成した理由

 不要不急の代名詞であるコース料理専門の高級レストラン「ことわりをはかるみせ ばんどう(以下、ばんどう)」は2020年4月に前年比150%を達成しました。もちろんコロナ禍の影響は大きく、緊急事態宣言により予約は一気に白紙になったそうです。

 そんな中、ばんどうの店主は「おいしいものを食べたいけれど外食ができないことをフラストレーションに思っている人はいるはずだ」と思い、2つの弁当を開発しました。それは「3,000円ののり弁当」と「8,000円の高級弁当」です。

 「究極の弁当を作ります」と宣言し、開発過程を都度都度掲載することで顧客からは大量の応援が届きました。そして販売開始となると爆発的な注文が入り、4月の売り上げは前年比150%になっていたと言います。

 ここで重要なのは「通販をやればいい」というわけでありません。より重要なことがあると小阪氏は続けました。

 より重要なのは、「顧客を持っていた」ということだ。フローのお客ではなくストックの顧客を持っていたことなのである。

 フローとストックとは、一般的には経済学、あるいは会計学の用語である。フローとは「流れ」を意味し、一定期間内に流れていくもの。会計で言えば売上や費用などを指す。一方、ストックとは「貯蓄されたもの」であり、会社が持つ備蓄などの資産を指す。これをマーケティングの世界に置き換えると「フロー=一見客」「ストック=常連客」ということになる。

顧客の時間は増えている

 今は外に遊びに行けなくなったことに加え、在宅勤務などで通勤の無駄が少なくなった人も多くいます。そうした中でSNSや動画配信サービスを利用しています。つまり、顧客の時間は増えているのです。その時間をどのようにして自社や自店のサービスに利用してもらえるのかという発想が大切になって来ていると述べました。

 本書では顧客の選択がよりシビアになる中、BtoB・BtoC問わず様々な事例から「ストック型ビジネス」「ファンダムづくり」「市場をつくること」と新たなしくみに関するヒントが書かれています。

 コロナ禍をチャンスに変えたいマーケターや、経営者には特にお薦めの書籍です。時代が変容する今だからこそ、本書を通してチャンスを見極める思考を理解し、実務に活かしてみるのはいかがでしょうか。

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この記事の著者

齋藤 ゆう(編集部)(サイトウ ユウ)

大学卒業後、広告代理店に入社しマーケターに。その後、事業会社に転職。金融・美容分野のマーケティング・企画・運営・セールスに携わる。2020年、翔泳社に入社しMarkeZine編集部に所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/03/24 09:00 https://markezine.jp/article/detail/35781

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