コロナ禍はSDGsを自分ごと化する一つのきっかけ
白石:ちなみに先生は、現在のコロナ禍は、SDGsの推進において重要なターニングポイントになると思いますか?
阿部:一概にそうとは言えないですね。ただ、新型コロナウイルスは、SDGsについて学ぶ一つの教材にはなり得ると思います。新型コロナウイルスはSARSやAIDSと同じで、人畜共通感染症(同一の病原体により、動物とひととの双方が罹患してしまう感染症)です。
その背景には、人類が熱帯雨林をどんどん開発して、その中に隠れていた動物やウイルスが飛び出して、人に罹患してしまったことが、確実に要因の一つとなっている。一部の生物学者の間では、未知の感染症の拡大は、人間が自然に手を加える限り抑えられないと話しています。
それだけでなく、コロナ禍で先進国と途上国の格差が浮き彫りになったし、職を失うのは女性の方が多いということもわかったし、アメリカで新型コロナウイルスに感染するのは一部の人種に偏っているという傾向も明らかになった。
現代社会を取り巻く様々な課題が、新型コロナを通じて顕在化したわけです。そういう視点でコロナ禍を見つめてみると、SDGsの格好の教材であると捉えられると思います。

白石:これまで正しいとされてきたことや、当たり前とされていたことが、コロナ禍で大きく変わってきて、新しい事業のあり方や、ビジネスのつくり方を見直すときがきていると私も感じます。
阿部:コロナ禍にならなかったら、SDGsは企業のビジネスづくりに利用されていたと思います。それで結果的に世界は破綻していたと思う。だけど、それじゃ限界なんだ、ということがコロナ禍でわかったわけです。
20年、30年後の未来を見据えた「旗」を企業が立てられるかどうか。そこにかかってきていると思います。
白石:「気づけなかったこと」に気づいた今、大人の私たちも、阿部先生が推進してきた教育、ESDから得るべきことが多いと感じます。次世代を担う人たちのためにも、現在の社会を担っている世代が、新たな価値観を再インストールする必要性があるように思います。世代が違うから知らなかったでは済まされないポイントですね。
阿部:その通りで、SDGsの17ターゲットを横串でつないでいけるのが、ESD、すなわち教育なんですよ。SDGsは社会をトランスフォーメーションするための手段です。社会にはジェンダーも、飢餓も貧困もある。これらの問題はすべて根底ではつながっています。
今、社会に埋め込まれているこうした問題を根底から変えられるのがSDGsです。「持続可能な社会の創り手」を育成するESD、すなわち教育を通じて、公正で持続可能な社会をつくっていくための手法がSDGsであるという風に、SDGsを定義し直すことができたらいいですね。
白石:ESDを通じて、ビジネス上で社会に対する免罪符的に活用されている「SDGs」に対して、本質を見直し、定義そのものから変えていく必要がありますね。ありがとうございました。