「PMFしていないかも」はここを見て判断する
栗原:ここまで話してきたように、PMFしているかどうかを客観的に判断するのは難易度が高いのですが、逆に「PMFしていないかも」という特徴は挙げやすいです。典型的なのは顧客獲得コストが高くて利益が出ないこと。他にも挙げてみましょうか。

稲田:プライシング、顧客に権限があるか、予算が確保できるかも重要ですが、本当に芯を食ったmust haveなプロダクトであればそういう障壁も乗り越えていくはずなんです。逆にnice to haveに留まっているものは、「大変だしやめておこうか」となってしまう。
それから、有料広告をやめた瞬間に売れなくなるというのもよくあるパターンです。スタートアップでも、資金調達で集めたお金をマーケティングに突っ込んで、それが尽きた瞬間に成長が止まるというケースが度々見られますが、これは誰にとっても良いことではないと思います。
田中:お客さんに提案して「いいね」と言ってもらっても、そこから先が進まない、というケースもありますね。「××でお困りですか?」「ニーズありますか」と聞いてみると感触が良く、マーケットがありそうだ、と思うものの、ペルソナベースでヒアリングをかけていくと、その人が抱えている数多くの課題の中での相対的な優先度が見えてきて、それほど高くなかったということがわかったりします。
真にmust haveなものを見つけるためには、営業・カスタマーサクセスが持つ“顧客に寄り添いニーズを聞き出す力”と、マーケターが持つ“客観的なファクトを抽出する力”の両方が必要と言えるでしょう。

しっかりしゃがんで、思い切りアクセルを踏むための知見を提供したい
MZ:本連載では今後、PMFを達成したBtoB企業に取材することで、そのエッセンスを紐解いていきます。開始にあたって、皆さんが今考えていることを教えてください。
稲田:最近では大企業でも、新規事業やオープンイノベーションといったアントレプレナー的な動きが求められるようになっています。数年前に0から1を作る「デザインシンキング」が流行りましたが、今は、さらに1を10にしていく方法論が求められていると感じます。
もちろん、Promotionを改善するためのマーケティング知識が不要になることはありませんが、Place、Product、Priceなど他のPも含めてマーケティングするということがこれから非常に重要で、それらをひっくるめて統合的に最適化していくPMFという概念がその役に立つと考えています。ただ、PMFに至るまでの過程はあまり情報が出回っていないので、取材を通じて肌触りのあるストーリーを見出していきたいですね。
田中:PMFに至る前にPromotionのアクセルを踏んでしまうのには、スタートアップが抱える構造的な課題もあります。常に結果を出して次の資金調達を目指さなければいけませんし、投資家からも成長を作れというプレッシャーがかかります。そのような中でも、PMFとはどのようなものかを明確にし、今がそのフェーズであるということをチーム全体で意識できるようになれば、成長を急ぐプレッシャーを跳ね除けられるのではないかと思っています。
稲田:大企業の新規事業でも同じで、まず初期の予算が設定されて、KPIが達成できないと止められてしまいます。だからPromotionを打って、背伸びをしてしまう。そうではなく、一度しっかりしゃがんで、きちんとPMFを達成した上で思い切りアクセルを踏んでほしい、そのために必要な知見を提供したいという思いでいます。
栗原:前職でBtoB事業のマーケターをやった後、新規事業の部門に2年ほどいたことがありましたが、その時にスタートアップ的な事業成長の方法論を学べたのはとても有益でした。他業界にある良い概念や方法論は、マーケティング業界も取り入れていくべきではないでしょうか。PMFについては、どうすればそこに到達できるのかまだ曖昧なところがありますので、取材を通じて成功パターンを類型化して、お伝えできればと考えています。
MZ:これから「チームPMF」で取材を進めていきましょう。本日はありがとうございました。