既存ファンを大切にしながら、未来のお客さんとつながるための工夫
SNSアカウントで見られるテイストの使い分けは、ブランドの世界観を作るうえでも徹底されている。「SHUSHU」「たまには酔いたい夜もある」については、ブランド専用のサイトが用意されており、一見すると沢の鶴とはまったく関係のない商品にも思える。「SHUSHU」のブランドサイトでは、バーベキューや花火、夜の街を歩く若者など、商品の世界観を表現する動画が用意されている。動画で商品が出てくるのは最後の数秒だ。

(視聴はこちらから可能)
一方、「たまには酔いたい夜もある」のブランドサイトでは、「たま酔いレシピ」と題し、商品の割り方を解説している。

「SHUSHU」については、商品専用のInstagramアカウントも開設されている。当初はFacebookにアップしていたというが、「反応が悪く、ユーザーが引いているのを感じた」(矢野さん)という。新規のファン獲得は、あらゆる企業にとって重要な命題だが、それを重視するあまり、既存ファンを置き去りにし、ブランドイメージを棄損してしまうケースもある。同社の配慮は、新規・既存ファンの両立に悩む企業にとってお手本となる例といえるだろう。
記事の半数以上が検索上位に表示
情報発信の手段はSNSだけにとどまらない。2018年からは、日本酒に関連する情報を発信するオウンドメディア「酒(さか)みづき」 を立ち上げた。立ち上げ当初は月7~8本の記事を投稿してコンテンツの蓄積を図っていたが、現在は月2~3本の新規記事を投稿しながら既存記事のリライトも進めている。記事のテーマは「日本酒の賞味期限は?」「『フルーティな日本酒』とは?」といったものから、お花見や正月といった季節関連の記事もある。

興味深いのは、「酒みづき」の前身は年2回発行していた紙の小冊子だったという点だ。現在のオウンドメディアはユーザー向けの発信となっているが、小冊子の時代は酒販店や卸業者といった得意先に手配りしていたという。小冊子はやがて廃刊となってしまったが、矢野さんのなかで「ポテンシャルを持ったコンテンツを発信しないままではもったいない」という思いがあり、デジタルの形で復活することとなった。
BtoB向けコンテンツからBtoC向けコンテンツに姿を変えた「酒みづき」だが、「沢の鶴が持っている日本酒に関するノウハウを届ける」という姿勢に変わりはない。「専門性が担保された上質なコンテンツをユーザーに届ける」という信念のもと、同社を好きになってもらうきっかけにするべくコンテンツを発信し続けている。コンテンツ制作はSEO会社と協働しており、取材時点で掲載記事は187本。記事の半数以上が想定した検索キーワードで1~5位以内で表示されるといい、月平均のPV数は30万、訪問ユーザー数は25万人と結果を残している。
SNSでも共通する姿勢だが、オウンドメディアの立ち上げにあたっては「結果を焦らず、時間をかけてファンを育てる」ということを心がけたという。記事の下層にはCTAといえるECショップへのリンクが設置されているが、設置は昨年からだ。まずは日本酒に関して役に立つメディアだと認識してもらったうえで、いつか同社が運営していると気づいてもらい、役に立つ情報を提供する同社への愛着を高めてもらえるよう作りこんできた。
