※本記事は、2021年4月25日刊行の定期誌『MarkeZine』64号に掲載したものです。
マーケティング・販促予算の変化
電通が2月25日に発表した「2020年日本の広告費」によると、総広告費は9年ぶりのマイナス成長となった一方で、インターネット広告費はプラス成長となった。MarkeZine編集部が読者を対象に行ったアンケート調査でも同様の傾向が見られ、テレビやオフライン媒体の広告費が減った代わりに、デジタル広告の予算が大幅に増えたとする回答が多勢を占めた。
では、マーケティング施策やツールの予算、デジタル化に関する動向はどうか。編集部がデジタルインファクトと共同で実施した『マーケティング最新動向調査 2021』から、MarkeZineを含む翔泳社のビジネス系メディアの読者でマーケティングに携わるビジネスパーソン1,063名に行った「マーケティング最新動向調査」の概要を紹介する。
最初に、回答者の属性を簡単に述べる。年代は20代が11.0%だが、30代〜50代までほぼ均等で、リーダークラスが20.1%、マネージャークラスと一般社員がそれぞれ約30%である。また、所属する会社は51.1%が広告主、支援会社とソリューションベンダーが合わせて31.8%、広告会社が7.0%。ビジネス形態としてはBtoB企業が63.3%、BtoC企業が36.7%となっている。
まずマーケティング・販促予算の変化について見ると、「オフライン(リアル)イベント出展・運営」は増加6.3%に対し減少44.5%と、コロナ禍の影響が如実に浮かんでくる。「自社サイト・自社ECサイト」は増加33.4%、減少10.4%となり、「ソーシャルメディア(広告を除く)」「ペイドメディア(4マス媒体、デジタル媒体の有料広告)」「広報・PR」「オンラインイベント出展・運営」といずれも増加が減少を上回っている(図表1)。
今後3年間の予算の変化についても、2020年に予算が増えた項目はそのまま増加傾向にある。「流通対策(小売店・卸などへの販売奨励金)」「オフライン(リアル)イベント出展・運営」などオフラインに関する予算はやはり減少が続く見込みだ。ただし、2020年は予算全体が増加18.9%に対し減少23.8%だったが、2021年以降は増加37.7%に対し減少13.5%と、マーケティング・販促の予算増にはどの企業も意欲的なようである。
本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2021』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。
マーケティング施策・ツールの予算の変化
2020年の広告費については、デジタル広告の増加が34.5%と突出(減少は8.5%)。4マス媒体は軒並み減少が増加を上回っている。これらの傾向は今後3年間の見込みとほぼ同じだが、デジタル広告が増えるとする回答は55.6%と、ますますデジタルシフトが加速していきそうだ。なお、2019年と比べて2020年で最も予算が増えたという回答が多かったデジタル広告は「検索連動型広告」で、「動画広告」「ディスプレイ(静止画バナー)広告」「インフィード広告(SNSやニュースアプリなどのタイムラインに表示される広告)」が続いた(図表2)。
さらに自社サイトやアプリにおけるマーケティング施策とツールの予算について見てみよう。最も予算が増えた施策は「コンテンツマーケティング(情報メディア、ブログなどによる情報発信)」となり、「レコメンドエンジン」以外の回答はいずれも増加が20%を超えている(図表3)。
ソーシャルメディアにおけるマーケティング施策やツールの予算では、「SNSのアカウント開設・運用」が増加31.6%、減少2.3%と圧倒的で、変化なしの30.5%を含めて多くの企業でSNSの運用に注力しようとする姿が見て取れる。「ソーシャルリスニング分析」など他の項目についても減少はわずかであるが、アカウント運用に比べるとそもそも実施していない企業が多いようだ(図表4)。
ツールの導入状況に関しては、複数回答可で「CRMツール」が約40%、「MAツール」が約35%。「プライベートDMP/CDP」は約20%で、ツールを導入していないという回答も約30%となった。どのツールを導入しているかについての詳細は『マーケティング最新動向調査2021』に掲載している。
コロナ禍とマーケティング活動
デジタル広告の予算が増加した他、コロナ禍はマーケティング活動にどんな影響を与えたのだろうか。多かった回答は「重視する販売チャネルがリアルからオンラインへと変わった」「製品・サービスの訴求内容を変えた」となったが、「特に変化はない」も同じような割合だった(図表5)。
マーケティング担当者に求められる役割の変化についても「特に変化はない」は34.7%と2番目に多いが、最も多かったのは43.7%の「デジタルの知識やスキルがより求められるようになった」であり、予算はもちろん、知識とスキルもデジタルシフトを進めざるをえない状況だったと言える。
また、マーケティングのデジタル化における課題を複数回答で尋ねた。「デジタル化に向けた社内のナレッジが蓄積されていない」が44.3%に上り、「データ活用に関して部署をまたいだ連携が難しい」「マーケティングのデジタル化を推進する人材がいない」「投資対効果の可視化が難しい/できない」が続いた。必要性は強く認識されており、その上でいかに組織や体制を作り、効果を測定していくかに課題が集中しているようだ。
本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2021』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。
質の高い顧客体験を実現するための施策は?
最後に、回答者の勤務先における年間売上高の規模別にクロス集計を行った結果を紹介する。回答者の割合は、「1億円未満」が11.2%、「1億円以上10億円未満」が15.7%、「10億円以上100億円未満」が21.8%、「100億円以上500億円未満」が17.7%、「500億円以上1,000億円未満」が5.6%、「1,000億円以上」が19.3%である。
設問は、データ分析の主目的の1つとなる顧客体験改善・向上について尋ねた「質の高いCX(顧客体験)を実現するために実施している施策は何か」を取り上げる(図表6)。
施策として実施率が高いのは「カスタマージャーニーを意識したマーケティング施策の最適化」で、「売上高1,000億円以上」で52.2%、「売上高10億円未満」で36.0%に。売上規模が下がるにつれて実施率は低下していくが、それでも売上規模を問わず高い割合となった。
2番目に実施率が高いのは「顧客への対面/非対面でのインタビューをもとにした製品・サービスの改善」。データ分析にはたいてい定量データが利用されるが、一方でインサイトを掴むため顧客に直接インタビューを行っている企業が少なくない。すべての売上規模で実施率が30%台となっており、定量と定性の両データを重視する傾向はより強まっていきそうだ。『マーケティング最新動向調査2021』では売上規模別だけでなく、ビジネス形態別(BtoCかBtoBか)でもクロス集計している。
マーケティング担当者が売上にどのように関わっているかを見ると、「売上は、マーケティング担当者の直接的な評価に関わるKPIとなっている」は、BtoCでは27.4%、BtoBでは19.8%と7.6ポイントの開きがあった。また「売上は、別部門の管理指標であり、直接的な関わりはない」については、BtoBが35.8%、BtoCが23.6%と12.2ポイントの開きがあった。
自社に近い売上規模、ビジネス形態の企業の動向を探ることで、より客観的に自社のマーケティングの方向性を検討することができるだろう。
本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2021』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。