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江端浩人氏に学ぶ、マーケティングとテクノロジー改革の最前線

【緊急執筆】「DX2.0の4P」モデルで社会課題を解決できるか ワクチン接種予約を検証


顧客側の視点「DX2.0の4C」の欠如

 マーケティング視点のDXでは4Pのみならず、顧客側の視点「DX2.0の4C」も提唱している。今回の問題を分析すると、まさにこの4Cの目線がまったくなかったと言えるのではないだろうか? ここで4Pの要素に対応する、4Cの要素「Customer value/Benefit」「Cutting Cost, Time and Distance」「Casual & Easy」「Community」を整理しておきたい。

1、Customer value/Benefit(顧客にとっての価値/将来的な価値提供)

 今回の場合、顧客にとっての価値は何か十分に考えられていなかったのではないだろうか。どの課題を何のために解決し、顧客(ワクチンを接種したい人)がどのような価値や便益(Benefit)を受ける事を求めているのか、十分に考えられていなかったと言わざるを得ない。

2、Cutting Cost, Time and Distance(顧客の手間とコストの削減)

 今回正に炎上している原因であろう。利用者が初めて使う複雑なシステムを利用者の手間とそれに係るコスト(お金だけではない試行錯誤や不安・心労も含む)が全くといって良いほど考えられていなかったのであろう。

3、Casual & Easy(手軽で簡単)

 今回の施策ではワクチン供給側はユーザーが予約した結果を受けて実行するだけであるので手軽で簡単であったが、ユーザー側は複雑で難解な仕組みを利用することを強制されたと言わざるを得ないだろう。

4、Community(ファンの育成)

 サービスや商品は利用された結果、その利用者がファンになりコミュニティを形成して広めてゆくことを目指さねばならない。今回はほぼ全国民が利用者であるが、ファンになるのではなく逆に不信感を増長させる結果になったのではないかと考える。

ワクチン接種予約を取り巻く課題をマーケティング視点で分析

 4Pと4Cの要素から、今回のワクチン接種予約を取り巻く状況を分析すると、下記のような問題が浮かび上がってくる。

ターゲットの定義が曖昧だったのではないか?

 マーケティングでは有名なSTP分析と言うのがあるが、今回はほぼ“全国民”がターゲットであったのではあるが、“デジタルリテラシー”すなわちデジタル施策に関する受容度を特に“高齢者”のセグメントで考慮する必要があったのではないか? この分析がきちんとできており、DXの4P/4C分析をしていれば、顧客である“デジタルリテラシー”が低い層にとっては使いにくい(単独では使えない)サービスだと言うことに気がつけたはずだ。特に「People」の観点や「Casual & Easy」の観点から「敢えてアナログで残す」分野があることに気がついたはずである。

「Problem」「Customer Value/Benefit」

 顧客である国民にとっての価値や便益を考慮せずに、問題を「予約システムがない」に履き替えてしまったのではなかろうか? ワクチンを受ける人が安心して順番にワクチンを接種できる仕組みが必要であったのだろう。

「Prediction」「Cutting Cost, Time and Distance」

 将来の理想像としては誰もが簡単に予約できる仕組みとして、スマートフォンにてワクチンを受けるために必要な情報がくることではなかっただろうか? その時に顧客の使うコスト(お金だけではなく、費やす時間、心労などもコストと考える)が十分に考慮されていなかったのではないか? もし今回、「デジタルリテラシーのない層」「デジタルリテラシーが多少ある層」「デジタルリテラシーが高い層」に分けてターゲットを考えていたならば、結果は違ったのではないだろうか。将来の理想像はまったく考えられていなかったのではなかろうか?

「Process」「Casual & Easy」

 作られたプロセスは「ワクチン提供側の負担を減らす」ことには成功しているが、その負担をほぼすべて顧客側に寄せてしまう結果となっている。特にデジタルリテラシーが低い層に対しては無策と言って良い仕組みであり、DXの顧客目線での「Casual & Easy」は残念ながらまったく考慮されていなかったのではなかろうか? 既存の選挙はがきや投票所、あるいは事前投票のような皆が慣れている仕組みの応用を検討していれば、ワクチンに次いでデジタル選挙に活用できる仕組みになった可能性もあるのではないか?

「People」「Community」

 人の関与に対する配慮も少なかったと言わざるを得ないだろう。予約システムを利用するにしても、各地でベータテスターを募り、問題点を洗い出すか、少なくともプロセスを事前に体験して他の顧客に広めてくれるコミュニティを形成するべきでは無かったのでないかと考える。システムの教育も配慮されていない。広告などで「こうしてください」とアナウンスするだけであり、人にやさしい仕組みとは言えないだろう。人の負担やデジタルリテラシーを考慮して「敢えてアナログを残す」分野を作っても良かったのではなかろうか?

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明確化した課題から具体的な解決方法を探る

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この記事の著者

江端 浩人(エバタ ヒロト)

iU大学教授、江端浩人事務所 代表、MAIDX LLC代表、AlMONDO事業顧問

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、日本コカ・コーラでマーケティングバイスプレジデント、日本マイクロソフト業務...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/05/19 08:30 https://markezine.jp/article/detail/36335

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