施策を描くから実行に移すための「ABC」とは
複数のチャネルを通じて集まるさまざまな情報を1つのユーザーIDに集約し、コミュニケーションの質を上げてマーケティングに生かす——パートナー企業との打ち合わせや資料などでよく見られる概念ではあるが、それを実際に推進している企業は、現状ではほとんどないといえるだろう。
この構想を進めていくに当たり重要だった、次の3つのポイントを玉手氏は挙げる。
第1に「抽象論ではなく本当にやる」ということ。第2に「ありたき姿を定義して山頂を目指す」こと。第3に「当たり前のことを馬鹿にせずに、ちゃんとやる」ということだ。この「当たり前(Atarimae)のことを馬鹿にせずに(Baka)、ちゃんとやる(Chanto)」を同社では昔から「ABC」と呼んでおり、この姿勢がLINEの活用術に表れているという。
1つの施策を実行することは容易ではない。たとえば、商品にQRコードのシールを貼付するコストはどれくらいなのか、コンビニの協力が必要な場合、誰がどうやって何を交渉するのか、LINE Beaconを使った位置情報マーケティングを行う際、誰がLINE Beaconを設置するのか。デジタルマーケティング部隊が頭で考えたことを「本当に」実行するには、実はさまざまなハードルがある。
そのハードルを乗り越えるには、「山頂」つまり目指すべき姿を社内で共有し、部門を超えて協力し合うことが肝要だ。玉手氏は「部署が異なっても、ベクトルは同じ方向に向けるはずです。明確なビジョンを伝えれば合意は得られます」と語る。
そのうえで情報を日々蓄積し、その情報をもとに顧客と最適なコミュニケーションを取るという。当たり前なことを、愚直なまでにやっていくのが、アサヒビールが考えるLINE活用のポイントだという。
キャンペーンは開始1日目からPDCAが回り始める
では、冒頭で紹介した2021年1月から5月下旬まで実施された「LINEで応募」キャンペーンを受けて、どのようなインサイトが蓄積されてきたのだろうか。
ハガキでの応募からLINEに切り替えたことで、キャンペーン開始後1日目からレポーティングを実施。キャンペーン前に立てていた仮説と、応募者から寄せられた属性データや、応募状況などを付き合わせ、その結果をブランド担当者と共有していったという。
「これまでは応募ハガキが到着しきってからしか集計できなかったのですが、LINEは1日目からデータをもとに仮説検証ができたので、細かい調整を重ねてキャンペーンを盛り上げていきました」(玉手氏)
このキャンペーンでは、応募者の詳細を把握したいという目的から、応募にあたり性別や年代等のアンケート回答を取ることにしていた。この回答を、社内のカスタマーデータプラットフォーム(以下、CDP)に蓄積し、閲覧・分析を進めていった。
その結果から展開したコミュニケーションは、玉手氏が繰り返し語るように「愚直なまでにストレート」なものだった。
たとえば応募がスパイクする日を見ると、「土日」もしくは「配信が行われた後」ということが判明。これにより、金曜日もしくは土曜日の朝にキャンペーンについて告知をすると、それに応じて応募数が跳ね上がることがわかった。
また、応募者のなかでも層が厚いと想定されるタレントのファンに向け、応募最終日直前に「締め切り告知」をプッシュ配信することで、ファンの応募を促すといった取り組みも実施。
「小さなことですが、こうしたコミュニケーションは、大々的な広告を1つ打つよりもずっと効果的です」と玉手氏は話す。
クリエイティブの差し替えも積極的に行われた。蓄積されたインサイトを見ると、CM撮影の参加に応募した層と、タンブラーに応募した層は、ほとんど別のペルソナのユーザー群であることが早いうちにわかったので、それぞれの層に合ったクリエイティブの出し分けを行ったという。
「お客様に不要な情報、興味のない情報を配信するのではなく、より好ましい情報を提供することがこれからの時代は求められると考えており、クリエイティブ変更を柔軟に行うことも必要だと思います」(玉手氏)