マーケターがセグメントを切る時代ではない? AIの活用がカギ
LINEの江田氏は「この話を聞くと、販促施策も、デイリーでPDCAを回して調整していく運用型の時代になってきていると感じます」と率直な感想を述べる。
そんな時代だからこそ、今後積極的に活用していきたいのがAIだ。アサヒビールでは、CDPに蓄積されたデータをAIで解析し配信の高度化・効率化を図っている。
たとえば、キャンペーンへの応募参加可能性を割り出したところ、AIが「参加する確率が高い」とはじき出した高スコアユーザーほど参加率が高いことがわかったという。逆に低スコアユーザーの場合、やはり応募は少なかった。
玉手氏はもともとデータ分析が好きで、数字を見続けたり、セグメント軸を策定したりすることは苦もなくこなしていくタイプだという。経験に裏打ちされたターゲティング設定には自信があったが、AIの予測の速さや正確さには「脱帽しました」とのことで、「マーケターが職人技のようにセグメントを切る時代ではなくなっていると思いました」と語る。
LINEのコミュニケーションでセグメント分けが求められるのは、当然ながら配信効率を上げるためだ。AIの活用について、玉手氏は次のように考えを述べる。
「LINEの友だち数が増えていくと、どうしても一人ひとりの顔は見えにくくなっていきます。『誰に送るか』ではなく、むしろ『誰に送らないか』という視点でコミュニケーションを最適化することが重要。人の感覚だけに頼らず、時にAIを活用することが大切だと思います」(玉手氏)
「お得」だけではなく「ブランド体験」へ、デジタル販促の未来
アサヒビールは今後、LINEのデジタル販促をどのように進化させていくのだろうか。
販促プロモーションといえば、購買を促進するため、最初はどうしても“お得感”を前面に打ち出す傾向がある。実際にアサヒビールもLINEでキャンペーンを始めた時は、キャッシュバックやポイント還元、サンプリングなど、購買者にお得を感じてもらうキャンペーンが主流だった。
一方、大きなブランドを持つ企業のマーケターとしては、「ずっとお得だけで良いのか」という葛藤が絶えずあったという。
「購買者にキャッシュバックやポイントなどの具体的な経済価値を提供することは、ビジネス上確かに大切ですが、それだけではないと考えています。そこは我々も議論を進めているのですが、ブランド体験や、パーパスに基づくメッセージも含め、様々なコミュニケーションをすることで、ブランドや商品、企業姿勢への理解を深めていただくことも重要だと考えています」(玉手氏)
これを受け、江田氏も、「LINEはブランド体験まで含めたフェーズをカバーするようなプラットフォームでありたいと思っています」と返す。企業にとってLINEを使うことで、より高付加価値なブランド体験を提供できるようにしつつ、購買者がキャンペーンへ応募しやすくなるように、LINEの販促体験そのものをより洗練化していくことを視野に入れているという。
たとえば応募方法については、シリアル付きシールや、レシート撮影、電子決済との連携といったように、さまざまな手段がある。これについて、リテール企業とLINEが連携することで、応募手段を拡充させていく予定だ。
「今後は『リテールパートナープログラム』という形で、リテール企業の方に特別なソリューションをLINEが提案し、メーカーと購買者にもメリットを還元していくプログラムを考えています」(江田氏)
「これにより、商品を提供するメーカーから、リテール、購買者に至るまでのエコシステムの体験価値を上げ、企業はLINE活用によるマーケティング成果をより向上できれば」と江田氏は意欲を見せる。LINEを活用した販促施策はこれからも進化していくようだ。