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「埋蔵人材の心理」にこだわった転職サイト”AMBI”のマーケティング戦略とデータ活用

 本記事では、エン・ジャパンが展開する若手ハイキャリア向け転職サイト「AMBI」のプロダクトマネージャーを務める鈴木氏と、データ分析を生業にマーケティングDXを推進するブレインパッドの近藤氏が対談。事業売上を伸ばし、多くのユーザーから愛されるサービスに進化したAMBIを鈴木氏がどのような思想のもと運営しているのか、またAMBIがこだわり続ける「ユーザーファーストな取り組み」と「データ活用」の詳細が明らかになった。

「キャリアを考える人」の心境や現状に寄り添うことが重要な時代に

近藤:ここ数年間の「転職市場環境」「求職者」はどのように変化したと感じていますか。

エン・ジャパン 鈴木 翔太氏
エン・ジャパン株式会社 デジタルプロダクト開発本部 プロダクトマネージャー 鈴木 翔太氏

鈴木:市場環境は、転職・仕事探しの「選択肢」が多様化し、それにともない転職を支援するサービスも大きく変化しました。まさに群雄割拠の状況です。

 私がプロダクトマネージャーを務めるAMBIをはじめとした求職者向けWebサービス領域では、我々のような若手ハイキャリアや、エンジニア向けのサービスが新たに登場するなど、「特定人材に特化」したサービスが非常に増えています。一方、ジョブボード型のサービス、SNS寄りのサービスも登場しています。

 また、「若手の特徴」と捉えていますが、求職者たちは複数の様々なサービスを使いこなし、キャリアに関する情報や転職活動ノウハウを「自分にとって必要な情報だけを選ぶ」時代に変化しているように思います。

近藤:確かに、「若手人材の情報感度」が変わりましたね。デジタルネイティブ世代は、複数のサービスを駆使して情報収集するのは当たり前。だからサービス側も、過去の戦略である「求人情報の掲載量」で勝負する時代から、求職者の現状や心境に寄り添った「デジタルカウンセリング(=パーソナライズ)」で差別化をする時代に移り変わりつつあるのですね。

鈴木:求人をインターネットに無料公開する「求人情報の民主化」が進み、ある種、誰でも求人情報を簡単に出せるようになったことが業界変化の大きな要因ですね。

 その中で、ほとんどの求職者は複数のサイトから「情報の取捨選択」をするわけですが、玉石混交の情報から自身が必要とする求人を探し出すのは非常に大変です。そうなると、近藤さんの言う「デジタルカウンセリング」の考え方は必須になると思います。

 すなわち、見えない求職者の心境・状況・悩み・心理に対する「深い探索」ができるかがサービスの優劣となる時代に変化してきたということです。

AMBIの成長を支える「埋蔵人材」のペルソナ戦略とは

近藤:そのような激戦下でAMBIは、2021年1月の応募数は「1.37倍(2019年比)」と伸びており、転職決定者数も「1.16倍(前年平均比)」と増加しています。

 試行錯誤を繰り返した結果だと思いますが、その中でAMBIの戦略の最も特徴のある「埋蔵人材」と掲げるターゲット戦略についてお伺いさせてください。

ブレインパッド 近藤 嘉恒氏
株式会社ブレインパッド マーケティング本部 本部長 近藤 嘉恒氏

鈴木:AMBIは、『高いポテンシャルを持つ若手の「志」に火を灯す』というコンセプトのもと運営しています。そのような若手人材を取り巻く課題を、我々は「埋蔵人材」という言葉で表現し、向き合ってきました。

 埋蔵人材とは「優秀であるにも関わらず、年功序列、人員過剰、前例主義などの『環境で伸び悩む』人材」を指します。このような方々に、仕事人生を前向きに捉えられる機会や情報を提供すべくAMBIはスタートしました。

 埋蔵人材の仕事人生を好転させるお手伝いをするには、転職顕在層である応募者だけでは限定的だと考え、私たちは「転職潜在層」も含めてユーザーと社内で定義しました。「すべてのユーザーのキャリア」に寄り添い、最適な選択ができる状態とは何か? その”不・負”を解決することで「熱い仕事との出会い」や「仕事を前向きに変える機会の提供」こそが「埋蔵人材に対する本質的な課題解決」であり、私たちのできる社会変革だと捉えています。

「埋蔵人材の志に火を灯す」=ユーザーファースト戦略の全貌

近藤:埋蔵人材という徹底したペルソナ設計に基づいたサービス戦略のすべての指針が「徹底したユーザーファースト戦略」であると伺いました。AMBIのユーザーファーストを体現する中で、特徴的なポイントはどのようなところですか?

鈴木:埋蔵人材の方は、現職で「ある程度活躍」をし、職場に「そこまで不満がない」人がほとんどです。そのため、我々は以下の2つを徹底するように心がけています。

(1)情報を押し付けないこと:
・情報が ”沢山あることが良い” わけではない
・AMBIで”書いていることがすべて” ではない
 └ 情報量掲載よりも「情報の捉え方」を伝えるコンテンツの工夫

(2)煽らずに内的なモチベーションを高めること:
・埋蔵人材は、現職評価も高く、いまの環境はある種心地よい環境
・他の同年代の、”企業名””転職後の年収”よりも”やりがい”を魅せる
 └同年代の「仕事の価値観」を理解できる場に位置付け

 埋蔵人材には、経歴が良い方も多く、転職サイトに登録すると膨大な量のスカウトメールが届き、情報氾濫に陥るのです。AMBIが「情報を押し付けないこと」を決めたのは、我々の存在意義は「ユーザーが考えるきっかけを作る」ことであると考えたためです。

 情報過多の時代だからこそ、AMBIというイチ人格からの意見・主張を発信するスタンスを守り抜いてきました。我々はキャリアの正解を提供する、とは微塵も考えていません。

 内的なモチベーションの高め方は、AMBIのWebサイトで一目瞭然ですが、「インタビュー記事」などが最初にくるなど、一見転職サイトには見えないデザインにしています。AMBIの掲載企業で活躍する若手の方への取材コンテンツを見せることで、同年代の方が活躍している様や盛況かつこれから成長が見込める市場・企業があることを提案し、煽りとは異なる「ユーザーの志に火を灯す」狙いを込めています。

エン・ジャパン 鈴木 翔太氏2

近藤:「埋蔵人材」というコアターゲット戦略に基づき、深い洞察を行い、徹底したサービス戦術を行っていますね。特に、転職活動初期の潜在層にとって、非常に心地の良い空間作りとなり、サービスへのフリークエンシーが高くなる秘訣がわかった気がします。

鈴木:「軽いキモチで登録した瞬間に膨大な量のスカウトがいきなり届く」って、驚いてしまいますよね。それによって「売り込みサイト」という認知をされてしまい、Webサイトを開かなくなり、せっかく新たな人生を考えてみようとする「小さな勇気」を断ち切って、不安にさせてしまうのは悲しいことだと考えています。

 AMBIがメールを配信する際は、「若手優秀人材を幹部候補に見据える求人」などを厳選して届けることを大事にしています。

転職を考える場所からキャリアを考える場所に

近藤:まさに、AMBIはユーザーが行動したくなる「配慮」や「導線」がふんだんに盛り込まれていますよね。既存機能として、「興味ある求人」に対してアクションを取ると、人事やヘッドハンターから判定をもらえる『合格可能性診断』など、自身の市場価値を知るといったものがあるかと思います。まさに工夫と知恵が組み込まれた「デジタルカウンセリング」機能を提供しているなと感じていました。

 そんな中、AMBIは2021年2月にWebサイトを大幅にリニューアルして、埋蔵人材たちがワクワクするコンテンツが拡充されました。今回工夫した点をお伺いできますか?

鈴木:今回のリニューアルで意識したポイントは、AMBIを「キャリアを考える場所」にするための機能拡充です。特に2つを重点的に意識して推進しました。

(1)仕事イメージを想起させる「記事型コンテンツ」の全面化
 └「Interview」「Report」記事で活躍する仕事のイメージの共感
 └ 記事に紐づく「タグ機能」「フォロー機能」、「転職Q&A」

(2)テクノロジーを活かした施策改善
 └「ボトルネック」を探るデータ分析:先回りアドバイスする【タイミング】
 └「接点頻度と状況」に合わせたシナリオ:配信者都合から【対話型】へ

 まず行ったのが、記事型掲載コンテンツの増加です。インタビューやレポート記事の量産だけでなく、興味のある記事カテゴリに「記事タグフォロー」機能を追加しました。能動的に探す埋蔵人材の行動に即した新機能です。また、記事編集は、弊社の元来の強みである「編集力」を活かした「テーマ特集」のキュレーションを行いました。

「転職潜在期には、条件検索が使いにくい」

鈴木:すぐの転職は考えていないけど、漠然とキャリアについて思いを馳せている状態のユーザーに、どう求人情報を提供するかを深く考えました。見えてきた仮説として、「転職潜在期には、年収・職種・勤務地など条件が定まってないので、よくある『検索条件入力』は機能していないのではないか」というものがあります。

 求人媒体としては当たり前の機能ですが、あくまで仕事を探す人のための設計であることに気が付きました。そのためAMBIでは、ユーザーが「興味関心を軸に情報を集めることができる環境」を整えたくて、記事を中心とした機能拡充を行いました。

 テクノロジー活用は、かねてよりパーソナライズを追求するべく、様々なツールを導入し試行錯誤してきました。よくあるデジタルマーケティングのPDCA運用はひととおり実行してきた感じです。

 今回のリニューアルを機に、コンテンツを拡充したことで、その運用はさらに細分化の道をたどることになるわけですが、ここで一つの不安に気づきました。

 これらのパーソナライズ施策の「精度」を高めようとすると、自ずと「我々の工数」が飛躍的に膨大してしまうことです。お客様に良い体験を提供する反面で、サービス運営しているスタッフが疲弊しては持続可能なサービスにならないというサービス提供の難しさを実感しました。

 そこで、前段の施策相談はもとより、戦略実行の基盤として導入していたブレインパッドのMAツールである「Probance(プロバンス)」の活用を進め、取得した対話データを見ながら自動的に最適なコミュニケーションが回る仕組みを作りました。

 ボトルネックを探るデータ分析を通じて、先回りしてアドバイスする「タイミング」を模索し、接点頻度とステータス状況に合わせたシナリオを回すことで、送りつけメールではない「対話に近い形でのコミュニケーション」が進むようになりました。

 「Probance」の導入は、CTR・CVRの向上にも貢献しましたが「顧客へのパーソナライズ(タイミング)の追求」と「スタッフの業務改革」の両面が回る持続的な運用に発展したことが、私たちが感じている真の成果ですね。

近藤:AMBIは、デジタルネイティブなサービス中に自身の業務改革を組み入れる、すなわち「DX」を意識されてますよね。

 CX(顧客体験変革)を追求するべく「企画」を洗練させ、一方でEX(従業員変革)を意識し、「運用自動化」を推進している。今の時代、「マーケティングの高度化」を推進する上では「データ活用」と「テクノロジー活用」は切り離せない中、ファクトデータをもとに顧客体験を追求したシナリオを設計しつつ、従業員に負荷をかけないよう運用自動化も推進している。MA活用の”理想のあるべき姿”だと感じました。

ブレインパッド 近藤 嘉恒氏2

デジタルマーケティング戦略に必要な環境・条件とは?

近藤:鈴木さんが考える、デジマ戦略の遂行において必須な環境、条件はどんなところですか?

鈴木:いろんなベンダーからプロダクトの紹介を受けていますが、我々の場合は、「埋蔵人材の多様化」に呼応したパーソナライズをし続けることを叶えるために重要なポイントは、以下の4つだと考えています。

(1)「タイミング」をトリガーに【運用できるテクノロジー】の選定

(2)「データ分析×マーケティング」の【造詣が深いパートナー】の選定

(3)人材業界特有の【潮流を熟知したパートナー】の選定

(4)デジタルを活用して【マーケティング業務自体を改善】できるアドバイス

 特に「運用が回せる」ことは欠かせないポイントです。どんなに素晴らしい機能で、どれだけ精緻なパーソナライズができても、人的運用リソースが大きくかかるものでは私たち側が疲弊してしまいます。だからと言って、制作会社に外注するのも論外です。そうならないように内製化・自動化を進めていくために、「自社が使い倒せるテクノロジーの選定」は非常に重要な環境条件になってくると思います。

エン・ジャパン 鈴木 翔太氏3

鈴木:そして、それは今回ブレインパッドの「Probance」を選んだ理由にもつながりますが、同社の担当者の方が「データ分析とマーケティング」の両方に造詣が深いだけでなく、「人材業界に対する理解度」についても非常に高かったのです。私の業界特有の質問に対しても、的確な答えが常に返ってきていました。ブレインパッドさんは単なるツール提供ではなく、パートナーとして非常に助けられています。

AMBIが目指す世界=「AMBIを使っていることが若手ビジネスパーソンのステータスになる世界を」

近藤:最後に、AMBIが目指す今後について教えてください。

鈴木:AMBIはこれからの「日本の社会の未来」を作っていく人たちを最適に配置するお手伝いすることが使命だと思っているので、AMBIで創出した企業と人材の出会いで「社会が変わる事例」を作っていきたいです。

 そして、「AMBIを使っていることを自慢したくなる世界観を作っていきたい」と思っています。今の世の中では、「転職=後ろめたさ」がまだまだある時代で、転職サイトを使っていること自体に後ろめたさがあると感じています。そうではなく、ユーザーも企業もAMBIを使っていることを表立って言えるようなサービスにできるよう、今後も機能改善に努めたいです。

近藤:求職者にとって、履歴書や職務経歴書は「自身のすべて」をさらけ出しているようなものですもんね。AMBIでは、そのデータをきちんとサービスの機能としてユーザーに還元されるプロセスで活用しており、最適なサービスを提供するフローが回っているんだなと改めて感じました。AMBIの目指す世界観にとって、「さらなるデータ活用」のお手伝いをブレインパッドがこれからも担っていければと思っております。

 鈴木さん、ありがとうございました。

近藤氏、鈴木氏2名カット

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この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/07/01 09:55 https://markezine.jp/article/detail/36411