田岡氏が提唱する「DXの4象限」とは?
――田岡さんは、昨年の10月から日立グローバルライフソリューションズにて、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進されています。具体的には、どのような取り組みを進めていらっしゃるのですか。
田岡:私のミッションは、同社のデジタル事業を加速させ、物を作るメーカーからサービスを提供する企業へと変革を遂げることです。とくに、新規の事業開発が大きな役割です。すでに日立でも、オフィス空調にセンサーを設置し、故障予兆診断を行い、事前にメンテナンスを行うサービスなどを展開していますが、メーカーはデジタルを活用してお客様に付加価値を提供していかねばなりません。
昨年11月には、西井さんもCMOをされているGROOVE X社に出資させて頂きました。GROOVE X社のLOVOTは、センシングデータ×AIが重要なサブスクサービスであり、まさに日立グループがフォーカスしている技術要素とビジネスモデルの組み合わせです。
――DXの重要性が語られて久しいですが、まずは何から手がけたらいいか?という課題感を抱える企業も少なくありません。田岡さんは、どのようなアプローチを取られていますか。
田岡:ひと言でDXと言っても、さまざまな目的がありますよね。私は、DXのエリアを「フロントエンド(対顧客)」「バックエンド(対業務)」「効率化」「価値創出」の4象限で捉えています。その上で、企業が持つ資産や目指す方向性などを加味して、何から取りかかるか、順番を考えていきます。このとき、ビジネスインパクトを見極めることも重要ですね。
西井:DXの言葉自体を、デジタル化だとかECを立ち上げることと捉えている企業は、まだまだ多いです。私も、DXには「業務」「事業」「価値」と3つの目的があると考えていますが、DXの意義を明確にしなければならないですね。
田岡:そう思います。とくに、「フロントエンド(対顧客)」×「価値創出」は企業が狙いたいところでしょうが、いきなり飛びつくのは難しい領域。まずは、自社がどういった状況なのかを判断して、どんなふうに階段を上っていくのか考えることから始めるのがよいと思います。
未知の案件でも、過去の学びを生かした応用力で対応
――先ほど、「デジタルスキルの不足」の課題が挙がりました。DXやAIと、次々に求められるスキルが変わる中、マーケターには日々の学びが欠かせません。答えがない問いに向き合うため、どのような基礎力が必要でしょうか。
田岡:応用力をつけることですね。新しいことが日々生まれてくる中、その度に一から勉強していては、間に合いません。「商品が違ってもユーザーの行動の裏にある本質は同じ」のように、応用力を用いてレバレッジを効かせることが必要です。
西井:おっしゃる通り、応用力は大事ですよね。AIにしても、マーケターは「Pythonを学ぼう」「アルゴリズム作ろう」ではなくて、「自社のサービスでどう使いこなそうか?」とソリューションを考えてほしい。
例えばTikTokのレコメンドは、フォロワー数の大小ではなくて、ユーザーの興味に基づいています。だから、無名の高校生がいきなり人気になるなど、他のSNSとは異なる体験を提供できるんです。その背景にAIがあり、サービスの差別化に繋がっている。このことを理解できる知識と、それを業務に生かす応用力が求められます。