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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

D2Cブランドの成長を支えるデジタル×マス融合の可能性

消費財のマーケターからD2Cブランドの経営者へ。ラフラ・ジャパンの経営に携わり見えてきたこと

日本発のブランドがグローバルでいかに戦ってきたのか?

 ラフラ・ジャパンは、最初に少し述べたように、中国を中心としたグローバルでも製品を販売していますが、中国支社などを作って展開したわけではなく、松岡自らが中国に出向き、市場を開拓してきた背景があります。具体的には、EC(e-commerce)での展開を強めており、中国の巨大ECサイトである天猫(Tmall)で人気商品となっています。

 松岡はECサイトで成功するにあたって、中国の卸店に出向き、取り扱ってくれるようにブランドのプレセンテーションを行ったそうです。日本で中国進出支援の代理店を見つけるのではなく、現地の代理店や卸店と直接話をし、現地のパートナーを見つけたことが、成功のきっかけであったと考えられます。商品、ブランド自体が現地の代理店が売りたいと思うような商品であったこと、そして売ってみたいと思わせるように代表自らが関係性を構築していったことが大切だと言えます。

 さらに、そのパートナーは現地の消費者やマーケットを熟知しているため、先々のトレンド発掘のための貴重な情報を得ることもできるようになります。私はラフラ・ジャパンに参画する前、ユニリーバのロンドン支社に勤務していましたが、その時にも現地のネットワークを持つことがどれほど重要かを実感していました。

 もちろん海外と強固なネットワークをもつ代理店もありますので、日本の代理店を否定しているわけではありません。ここでお伝えしたいのは、成功するための人脈やビジネスリソースをもっていることが重要であり、そのためには自分が納得いくまで、経営者自ら足を運ぶことが必要だということです。

両社の共通項は、パーパスに基づくブランド設計

 今回の買収・グループ化を受けて、「PMI(Post Merger Integration:M&A後の統合プロセス)が大変なのでは」と質問を受けることが度々ありました。しかしブランドの設計の部分で両社に大きな違いがなかったため、障害となるものは少なかったという印象です。

 その共通項とは「パーパス」です。ユニリーバはすべての国で、パーパスを大切にしたブランド作りをしています。パーパスとは文字通り「目的」であり、ブランドが社会に存在する意義を表現したものです。ユニリーバは、ブランドの中長期的な育成やモノづくりの過程において、消費者の日々の暮らしや社会にどうポジティブな変化をもたらせるかを大事にしています。

 ラフラ・ジャパンの社名にもなっており、創業当社からあるラフラというブランドは、“Less is beautiful(少ない方が肌は嬉しい)”という理念を掲げ、できる限り使用する化粧品を減らすお手伝いをしたいと考えています。化粧品ブランドであれば、ステップを増やし、様々な製品を使ってもらうことが売上につながりますが、使わないことの美しさを伝えることにより、短期的な消費量は落ちるものの“ブランドを理念に共感してくれる長期的なファン”を獲得することに成功しています

 そして、このブランドに限らず、ラフラ・ジャパンのあらゆるブランドはポジショニングが非常に明確です。たとえばTUNEMAKERSというブランドでは、化粧品成分そのものである原液を、何十種類もラインナップに構え、一人ひとりの肌ニーズに応えられるような製品設計をしています。パーソナライズやカスタマイズを、マーケティングの手法として使用しているのではなく、肌ニーズや肌質は一人ひとり異なることを理解した上で、複数の原液を提供することで、すべての方が納得のいくスキンケアを見つけるお手伝いをしたいと考えているのです。表参道に路面店を作り、ワークショップも毎日行っているのも、そのコンセプトを経験を通じて消費者の皆様に伝えるためです。

 上記のように、ラフラ・ジャパンは創業20年余りの企業でありながら、パーパスを非常に大事にしています。考え方の土台がユニリーバと共通していることから、経営者としてブランド作りにはまったく違和感はなく、むしろラフラ・ジャパンから学ぶことも非常に多いです。パーパスの考え方をさらに強化していくことで、これまで以上に、長期的に続くブランド作りができていくでしょう。

ラフラ・ジャパンの成長をどのように実現するか

 ここからは、私が現時点で考えているラフラ・ジャパンの経営戦略をお話しします。

 マスブランドのノウハウをD2C企業にそのまま応用したら簡単に伸びるかというと、そう単純な話ではありません。まずはブランドをリスペクトし、創業者およびこれまでのブランドの歴史と理念を理解することからはじめます。その中で、私のこれまでの経験やユニリーバのノウハウが活かせそうなところがないか、検討していきます。

 ベン&ジェリーズというアイスクリームは、米国で創業後、ユニリーバの傘下に入りました。買収後も、ユニリーバのやり方を押し付けるのではなく、創業者の意見を尊重し、元々もっていたベン&ジェリーズの良さを活かしながら、ユニリーバのネットワークを活かして世界へと展開しているのです。

 利益が出ていない赤字ブランドの買収の場合はやり方を抜本的に変えるために、スクラップアンドビルドという形でブランドを立て直しますが、既に利益が出ており、消費者から支持されている企業の場合、その良さをさらに引き出すにはどうしたらよいかを考えています。

 ラフラ・ジャパンは現在世界10ヵ国以上で展開していますが、主力エリアの日本と中国を中心に、今後の成長戦略を描いています。中国市場では現在ECがメインですので、今後は小売店での拡大を考えています。ユニリーバ・チャイナは、ユニリーバ・ジャパンと同じように小売店でも販売をしているため、この小売店とのつながりを活用し、取扱量を増やしていきます。なお日本市場では既に、PLAZAさんやロフトさんといったバラエティショップでの展開に成功していますので、そのノウハウも活用できます。

 一方日本では、ECにまだ伸ばせる機会があるとみており、昨今のD2C企業の良い部分のノウハウを取り入れるとともに、創業から大切にしているブランドのポジショニングを明確に伝えていくことで、成長を実現していきます。

D2Cブランドのマーケターになったとき、何をすべきか?

 最後に、私がラフラ・ジャパンに関わる中で考えてきた、D2Cブランドのマーケターや経営者となったときに何をすべきかについて述べたいと思います。私自身はマスブランドの経験が長く、D2Cブランドの経営者としては経験が浅いのですが、何かしらの形で読者の皆様のサポートになれば幸いです。

1. ユーザーとの対話を怠らない
2. 売り方を見直し続ける
3. 広告手法を見直し続ける

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1. ユーザーとの対話を怠らない

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この記事の著者

木村 元(キムラ ツカサ)

株式会社Brandism
代表取締役

ユニリーバに2009年に入社。約12年間、ラックスやダヴなどのブランドマーケティングを経験。国内を中心とした360°のプロモーションから、グローバルのブランド戦略や製品開発まで、幅広く従事。ロンドン本社にてダヴを担当し、グローバル全体のブランド戦略設計をリードした後、20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/08/02 09:00 https://markezine.jp/article/detail/36761

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