「Webデザインの本質」とはなんだろう?
四家
濱川さんの考えるユニバーサルデザインWebの概念について、もう少し詳しく説明してもらいましょうか。
濱川
まず、「なぜWebサイトを作るのか」について考えてみるとわかりやすいと思います。
企業はサービスや商品の持つ「こだわり」や「よいところ」を伝えたい。一方、消費者はそのサービスや商品の「こだわり」や「よいところ」を知りたい。つまり、Webサイトを通じて、お互いがコミュニケーションを求めているわけです。
四家
たしかにそうですね。
濱川
Webにおいてデザインの果たすべき役割とは、このコミュニケーションをうまく成立させることです。つまり、企業と消費者の唯一の接点として、まずは「知りたい」ことを、きちんと「伝える」こと。これこそがWebデザインの本質じゃないかと思うようになりました。
しかし、実はデザイナーにしてもディレクターにしても、企業のWeb担当者にしても、自分たちのメッセージを発信することには一生懸命なのに、相手に「伝える」という意識が希薄という気がします。
コミュニケーションを成立させるのは、Webデザインの大切な役割。

四家
「発信する」と「伝える」ってどこが違うんでしょう。
濱川
「伝える」というときには、コミュニケーションをとる相手の視点で、メッセージをつくる必要があると思います。
Webを例にすると、商品カタログを見てアクセスしてきたユーザーに、カタログとまったく同じ内容を並べただけのサイトしか見せられないのでは、ユーザーの期待に応えるメッセージを伝えることはできません。
四家
カタログと同じではなぜダメなんですか?
濱川
Webにアクセスするユーザーは、なんらかの目的をもってアクセスします。カタログを見て気になる商品があったから、もっと詳しく知りたいと思ってアクセスしてくるわけです。
四家
Webでなんらかの疑問や問題を解決したいというニーズを持っている、と。
濱川
そうです。そのニーズに対する解がきちんと「伝わる」ようにするのがWebデザインの役割だと考えたんです。
四家
つまり「伝わる」というのは、単にメッセージを伝えるだけではなく、相手にしっかり受容されるということなんですね。
濱川
はい。そのために、「ユーザー視点」が大切になるというわけです。
ユーザー視点の大切さ
四家
ユーザー視点の大切さは、ユーザーテストをやるとよくわかりますよね。導線やページの構成、ラベルの表現などはテスト結果がとても参考になるし、ちょっと恐ろしくなる。「わかってねーなー俺」って。
濱川
いやー、自分がつくったサイトだと立ち直れなくなる可能性はありますね。もう、ボロボロ(笑)。誰も上手に使ってくれないのを目の当たりにして幻想が崩れる瞬間。
四家
それくらい「ユーザー視点」って難しい。
濱川
難しいですし、それだけ改善の余地がある=取り組む意義があるってことではないでしょうか。
四家
そういえば自分以外の視点を持つために、いつもユーザーテストをお願いしているパートナーの方々がいますよね。
濱川
はい。ご高齢の方や視覚障害をお持ちの方々にご協力いただいてます。すごくベタな方法ですが、「情報のユニバーサルデザインを広めるために一緒にご協力いただけませんか」と、障害者の就労支援団体やNPOを1軒1軒訪ねて口説きました。
四家
やっぱり直球なんですね(笑)。
濱川
いきなり一企業の人間がやってきて「パートナーになりましょう」なんて自分でもうさんくさいと思うんですが、本当にみなさん、とても前向きにご協力いただいています。今では、東京だけでなく、静岡、千葉などいろいろな地域のNPOや団体とパートナーシップを結んでいます。
四家
そういう努力はもっと社内でアピールしないと!
濱川
まあそうですね。とにかく、こうしたユーザーテストに代表される、「評価」や「検証」というものをワークフローに導入することが、とても大切です。
「企画して制作して終わり」ではなくて、「デザインという仮説」が正しかったのかユーザーの視点で検証しなければ、結局企業視点から抜けられない、ユーザー視点には立てないと思うんです。