「まずプロトタイプを作り、後から改良する」海外の先進企業
西井:『「売り方」のオンラインシフト』、読みました。面白かったです。私が2年前に出版した『サブスクリプションで売上の壁を超える方法』と内容が重なるところもあり、共感しながら読み進めました。まずは、この書籍を出版された背景から伺えますか?
玉井:世界中のリーディングカンパニーを視察する機会に恵まれた私が、彼らの知見を伝えることで、このコロナ禍でオフライン中心のビジネスに苦しむ人の役に立てるのではと思ってこの本を書きました(なお、初版著者印税分は全てコロナで苦しむ人々に寄付される)。
玉井:たとえば、Googleのイノベーションチーム「Google X」が手がけた「Google Glass」。現在は販売が終了してしまいましたが、驚いたのがこのプロトタイプの最初のバージョンを作るのにかかった時間です。どれくらいかかったと思われますか?
西井:1年くらいですか?
玉井:実は、15分なんです。この話を聞いた時に、私は驚いてひっくり返りました(笑)。結果的にサービスは終了してしまったのでGoogle Glassは失敗なのかもしれませんが、「とにかく作ってユーザーの反応を見て改良していく」という姿勢から学ぶところがあると感じたわけです。
同様の例として、中国の無人コンビニがあります。現場へ視察に出向いたのですが、電気が点いているのに入れなかったんです。無人なので問い合わせもできず、結局そのまま帰ることになりました。
中国の知人にこの話をすると、「ずっと閉まっているわけではなく、開いている日もある」とのことでした。それくらいいい加減な運営でも、とにかくローンチして得られたデータを基に「もう少しこうしていこう」と改善を図っていくスタイルなんですよね。
西井:私も深センの無人コンビニを訪れましたが、入れませんでした(笑)。深センではプロトタイプがすぐ作れる風土があるようですね。サービスが利用されているかどうかは置いておいて、「まずは出してみる」というケースがシリコンバレーや中国には多い印象を受けます。
データを「売った後の改善」に役立てる
西井:昨今、サブスクリプションサービスの世界では「『売るまで』ではなく『売ってから』が勝負」と言われています。昔から新聞などの定期購読はありましたが、1度契約が取れれば後はひたすら送り続けるだけで良かった。ユーザーがふと「今は要らないかも」「違う新聞に変えよう」と思い立って解約が発生する流れが一般的でした。
玉井さんも本の中で「コロナ禍でマーケティングは変化していく」と書かれていましたが、具体的にどのような変化が生じているのか、詳しく聞かせてもらえますか?
玉井:まずは「データの使い方」ですね。今までのマスマーケティングは消費者調査やテレビCMの事前調査を通じて得られたデータを、商品を「ローンチする/売る前」の施策に活用していました。一方、先程のGoogle Glassや無人コンビニの場合は、たとえ中途半端な状態でも商品を世に出して、そこで集まったデータを「売った後の改善」に役立てています。