ローカルな活動に着目した新しい試み
次に、よりローカルな活動に着目した新しい試みを捉えている論文を紹介します。大阪市立大学の小林哲教授による「コロナ禍での地域ブランディング ― 地方活性化策の点と線 ―(PDF)」です。
この論文では、これまで当該地域を訪れる人数である交流人口をベースに考えられていた地域ブランディングに焦点をあて、コロナ禍により交流人口が激変した地域の活性化策の可能性が考察されています。その政策には、交流人口に加え定住人口の増加などの構造的問題解決という長期的視点(線)と、応援消費を捉えた地域産品のネット販売などのコロナ禍という特殊状況への対応という短期的視点(点)の両方が不可欠となることが示唆されています。
そして、岡山理科大学の村松潤一教授、大藪亮教授、宮脇靖典教授、金沢大学の張婧講師による論文「アフターコロナ・ウイズコロナ時代の価値共創マーケティング ― 企業システムの視点から ―(PDF)」では、価値共創研究をもとに、本部と加盟店からなるボランタリーチェーンを超えて加盟店と顧客までを射程に収めようとするローカルプラットフォームという企業システムが考察されています。
コロナ禍によって分断された社会においてこそ、改めて共創を作り出す仕組みが求められることになるわけです。このローカルプラットフォームにおいて重要なことは、現場への大幅な権限委譲、「我々は何者か」から常に問い直すことで顧客志向を徹底させるエフェクチュアル思考、それから弱いつながりの強さの3つだといいます。
組織の変化
最後に、企業の内部の変化を示す論文を紹介します。一橋大学大学の阿久津聡教授、勝村史昭特別講師、徳永麻子研究員、日立製作所の後藤恵美本部長、木村誠主任技師による「コロナ禍で加速したテレワーク時代の共感マネジメント ― コミュニケーションモデルの提案と実践手法の検討 ―(PDF)」です。
この論文では、コロナ禍で加速したビデオ会議において、リアル会議に比べて受け手の共感を得ることが難しいという問題に焦点をあて、「共感する」、「共感できない」などのボタン設置による共感を把握できるコミュニケーション・ツールの利用データをもとに、改善策が模索されます。
同ツールで共感が測定できる妥当性を示した上で、発表者の属性や音声、ビデオオンなど共感を得るためのコミュニケーションのあり方が示唆されています。こうしたツールを使い、トップやマネージャーが従業員の共感を定期的にモニターし、コミュニケーションの内容や方法を改善していくことが、ニューノーマル時代にはより一層求められるでしょう。
また、東京都立大学の高尾義明教授、神戸大学の江夏幾多郎准教授、松山大学の麓仁美准教授による論文「COVID-19の流行下の営業・マーケティング職における職務環境の変化と適応(PDF)」では、営業・マーケティング職の職務環境の変化と適応がパネル調査をもとに考察されます。
他の部門と比較して明らかになった営業・マーケティング職のコロナ禍での対応は、マーケティングが現実に何をしているのか、そしてこれから何をなすべきなのかを考え直すきっかけとなります。
たとえば、営業・マーケティング職の人々は、他部門の人々に比べ、2020年7月の段階で不安感が少なくなっていたといいます。同時に、仕事をする上で他者に依存する程度を示す他者依存性も、他の部門の人々に比べて減少しており、急速にオンラインでの営業やマーケティング企画に対応していったことが伺えます。
マーケティングの創造性
こうした活動がマーケティングの新しい試みとなり、日本はもとより世界情勢に影響を与えることになるといえます。状況は依然として流動的です。未来シナリオでいえば、既に6つ目のスクール・トリップはなくなっています。
今、私たちができることは、よりよい社会や未来の実現に向けて、前に向かって進んでいくことだけです。マーケティングは環境に適応して変わっていくものですが、同時に、マーケティングが新しい環境を作り出していく側面もあります。改めて、マーケティングの創造性に注目したいと考えています。
今回ご紹介した論文での多くの知見が、ニューノーマル時代の未来を切り拓く一助となることを願っています。