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COLUMN

「#家計簿公開」「#大人の発達障害グレーゾーン」から浮かび上がる、消費者欲求の新たな兆し

 ソーシャルリスニング分析は、現状ではプロモーションやPRといった企業行動の結果の把握に主に用いられています。しかし、キーワード設定というハードルを越えれば、新たな価値の開発や商品・プロモーション施策などのアイデア開発に活かすことができます。消費者インサイト探索からのアイデア開発支援を手がけ、著書「欲しいの本質」等があるデコムの大松孝弘氏が、「キーワード」に関する事例を紹介します。

キーワード設定で、新たな欲求の兆しを知る

 前回の記事「消費者欲求の兆しをSNSから見出す、ソーシャルリスニング分析の勘所」では、ソーシャルリスニング分析によるアイデア開発で、押さえるべきポイントを説明しました。SNSから欲しい情報を抽出するためには、「キーワード設定」を適切に行う必要があるのです。

 ありきたりではない、探索する側も予期することができない「想定外の情報」を手にしたい。しかし、見えない変化や新しい動きを引き上げるには、どんな言葉で抽出すればいいかわからない。アイデア開発のために行うソーシャルリスニング分析には、こういった矛盾を解消しなければなりません。

 私たちは数多くのソーシャルリスニング分析に基づくアイデア開発のプロジェクトに携わってきました。今、どんなキーワードを設定すればアイデア開発に結びつくヒントが得られるのか? 消費者欲求の新たな兆しを見つけるプロジェクト「ソーシャル・スプラウト」のレポートから、キーワードの一部をご紹介します。

 この「ソーシャル・スプラウト」では、2段階で分析を進めています。まずStep1として、インターネットアンケートを通じたキーワードの探索を行いました。前回紹介した「n=1定性ビッグデータ」を収集することで、ソーシャルリスニング分析を行うためのキーワードを得るのです。これが最初の仮説探索の段階です。

 そして、Step2としてこのキーワードを用いてソーシャルリスニング分析を行い、キーワードを深掘りして仮説の検証を行います。手順は以下の通りです。

1.過去3年間で出現件数が増えているキーワードを25個抽出(量的検証)。

2.25のキーワードに関する発言を読み込み定性的な分析を行い、新たな価値を読み解く(質的検証)。

3.該当するカテゴリーにおけるこれまでの価値と、明らかにした新たな価値との違いを、「既存路線」と「新路線」という形式で対比。

 このStep2では、ソーシャルリスニングツールを使用して分析を行っています。現在は国内外に様々なソーシャルリスニングツールがありますが、ご自身の使用目的に合わせて適切なツールを選択すればよいでしょう。

 こうして集約された25のキーワードから、新しい時代に向かう消費者欲求の9つの兆しを見出しました。その25のキーワードの中から2つ紹介します。

「#家計簿公開」というキーワードの背景にあるインサイト

 「#家計簿公開」とは、1ヵ月の家計の支出をSNSにアップする人がつけるハッシュタグです。支出は費目ごとに記録されています。公開されている記録は、1ヵ月経った後の振り返りの記録が基本です。さらに、給料を貰った際に予め今月は何にいくら使うかを決めた予算の振り分けの記録もあるので、予算の建て方の参考になります。

 投稿者は自ら公開することでフォロワーから反応を得ることができます。一方、ユーザーはなかなか見ることのない他人のお財布事情を覗くことで、家計の上手なやりくりの方法を知ることができます。

 このハッシュタグがついたn=1の実際の投稿を見てみましょう。

@nonoko_16 さん
@nonoko_16 さん
  • ・女性35歳。専業主婦。子供2人
  • ・2人目の子供の出産、退職のタイミングで夫の借金(300万円)が発覚。元々浪費家で夫婦の貯金はほぼ0だったため、危機感を感じて家計管理&インスタへ投稿をスタート
  • ・ファイナンシャルプランナー3級を取得するなど、勉強家で真面目、几帳面でマメな性格。他人任せにせず、自分で調べて1から作り上げることが好き

 「#家計簿公開」というキーワードが注目されている背景には、次のような価値の変化があります。

【既存路線の価値】(今まで同じカテゴリーで提供されていた価値)

 自信があることを披露して賞賛を集める

  ↓

【新路線の価値】(このキーワードが新しく提供している価値)

 不幸でも健気に頑張っているところをアピールして共感を集める

 すなわち、恥ずかしい部分・負い目があるところも隠さず公開することで、自分の健気さに共感してもらう時代、という変化の兆しと考えられます。

 これまでSNSに投稿する内容といえば、みんなからすごい!羨ましい!憧れる!といった意味で、「いいね!」がもらえる、暗に自分自身や自分の生活をアピールするようなものが主流。人から自分が良く見えるポジティブなシーンを切り取ったものでした。

 しかし、そのような投稿が溢れかえっている反動もあってか、無理にカッコつけない、弱点やコンプレックスなどのネガティブな一面が公開されるようになりました。そのような行為が、嘘偽りがなく誠実、健気で応援したくなる。それをポジティブに受け止めてもらえる時代に変化しているのです。

 「#家計簿公開」では、投稿者が背伸びしていない身の丈にあった収支を公開している分、フォロワーからより親近感をもってもらえるという特徴も見えています。

 このキーワードからアイデアの方向性を導くと、以下のような例が考えられます。

 美容カテゴリーであれば、すっぴん、薄毛など本来隠したくなるような恥ずかしい部分に焦点を当て、肯定してあげるキャンペーン「あなたの健気な頑張り認めます」といった展開。住まいカテゴリーでは、SNSで汚い部屋を公開した人にプレゼントを贈る(例:家具や掃除用具など)、「正直なあなたに贈るプレゼントキャンペーン」などです。

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この記事の著者

大松 孝弘(オオマツ タカヒロ)

株式会社デコム 代表取締役
大手広告会社を経て、2002年デコムを創業。2006年に日本初のインサイトリサーチに関する書籍「図解やさしくわかるインサイトマーケティング」を上梓する。株式会社デコムは、設立以来、一貫してインサイトリサーチによるアイデア開発を提供。著書に『「欲しい」の本質~人を動かす隠れた心理「インサイト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/08/18 08:00 https://markezine.jp/article/detail/36895

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