コンテンツファーストを徹底
Modern Ageが企画・制作を担当した具体的な事例を紹介しよう。オーディオテクニカのワイヤレスイヤホンのプロモーション動画「Color of Life」だ。製品のメインターゲットである、10〜20代の男女から多くの支持を集める声優を、イヤホンの6色のカラーにちなんで6名起用した。

2020年10月に第1弾を、2021年7月からは出演声優を一新した第2弾の音声ドラマが配信中だ。薦田氏は、キャスティングのこだわりを次のように明かす。
「まず第1弾に参加された下野紘さんには、黒色のイヤホンを担当いただきました。かねてから人気のある下野さんは当時、鬼滅の刃の我妻善逸役でより大きく注目されていた時期でした。善逸のイメージカラーである黄色をお願いする選択肢もあったのですが、あえて外しました。多数の役を演じてこられた下野さんですので、一つのキャラクターだけが想起されすぎないように黒色でキャスティングをしました」(薦田氏)
この、知る人ぞ知る「わかってる!感」を込めたことで、ファンの反響は大きかったという。第2弾のキャスティングも第1弾の流れを組みつつ、アーティストデビューをしている声優や歌唱力に定評がある声優をキャスティング。シンプルにコンテンツとして楽しめるだけでなく、前回の動画を視聴した人に、よりおもしろがってもらえる「関係性」なども忍ばせているという。また、ティザー映像にはアニメやゲームで頻度に登場する「世界線」というワードを使用し、よりファンダムに寄り添った制作を行った。
「自分が応援している人がキャスティングされて、かつブランドとマッチした“わかりみ”があるコンテンツやクリエイティブを目にしたときに、“ありがとう”の言葉が生まれます。そのとき、“このキャスティングでなければダメなのだ”という文脈を、こちらが明言せずとも、ファンのみなさんはしっかりと察してくれます。ファンダムのインサイトを捉えたこだわりが伝われば、大きな反響が生まれます」(薦田氏)
非常に細やかなコンテンツ制作をする必要がある。しかし、このコンテンツファーストの姿勢が、ファンダムに受け入れられ、商材の購買やブランド好感度向上へつながるのだ。
もしかしたらオーディオテクニカのような“音”に関連する企業だから、声や歌に関わる声優と相性が良いのではないか?と思うマーケターもいるかもしれない。だが、「業種業態を問わず反響は大きく、継続意向も強いです」と高野氏は説明する。
ファンダムの熱量を実感しよう
終わりに、ファンダムのインサイトを理解する方法をうかがった。
高野氏は、定性・定量・直感を挙げる。SNSなどで口コミの内容を把握しながら、対象がどういった層に人気で、どんなパーソナリティーが支持されているのか定性面を把握する。その上で、「この組み合わせがおもしろいのでは?」と言ったアイデアを、ファンダムに近い目線で感覚的で広げていく。さらに、データを用いて戦略的にクライアントの課題解決につなげる方法へと落とし込んでいく。
薦田氏も、「TwitterやTikTokなどファンダムの活動が活発なSNSで、実際の声を見聞きしながら、肌感を養いつつ、データで裏付けしている」と話す。リアルイベントが日常的に開催されていたときは、現地へ足を運ぶことも頻繁にしていたという。すると、どんな人たちがファンであるかが明確にわかるのだ。
自社の顧客を対象としたファンマーケティングと異なり、ファンダムを理解し同じ目線で対象を愛するところから始まる、“ファンダムとのコミュニケーション”、声優をはじめ、漫画やアニメと組んだブランディングを検討している場合は、自分の好きな人やコトを全力で応援するファンダムのポジティブな力の強さを、まずは体感するところから始めてはいかがだろうか。