ファンダムの「ありがとう」を引き出すコンテンツの鍵
マスと比べ一見ニッチな印象を受けるトライブやファンダムだが、関連性が高い領域同士はつながっていく。たとえば、あるアーティストの楽曲がアニメの主題歌になったとしよう。すると、音楽トライブとアニメトライブはつながり、一気に情報が拡散されていく。
ブランドメッセージの発信においても、正確なターゲット設定を行い、ファンダムと正しくコミュニケーションを行えば、情報流通の規模は何倍にもなるのだ。
その上で、ファンダムへのコミュニケーションには、「一方的な企業視点の広告ではなく、ファンダムが喜ぶ文脈でコンテンツを作り込むことが大事」と高野氏。ファンダムが“ありがとう”と言いたくなるようなコンテンツが求められる。
具体的には「わかってるね!感」と「そうきたか!感」が重要だという。
「わかってるね!感」とは、対象の文脈や背景を理解し、「このブランドやプロダクトは、私の好きな○○のことをわかっているな」という納得感である。そして、「そうきたか!感」は、いわゆる意外性のこと。ファンダムの想像を超える結びつきを設計し、通常では出会わないコラボレーションや組み合わせを作ることが大切だ。どちらも、コラボ対象とファンダムへの深い理解や尊敬の気持ちが前提として必要である。

「情報過多な現代において、認知だけのマーケティングでは“愛されるブランド”にはなれません。これまでも、IPコラボやインフルエンサーマーケティングなど、ファン層に働きかけるマーケティングはありましたが、単発で終わることが多く認知止まりでした。ファンダムに継続してコンテンツを届けていくことで、ブランドへの愛着が生まれるのです」(高野氏)
流行に乗らず、文脈を理解する
では、ファンダムから支持されるコンテンツを作るにはどうすればいいだろうか?
これまでにModern Ageでは、オーディオテクニカや三井住友VISAカード、コーセーコスメポートなど、さまざまな業種で声優を起用したコンテンツをプロデュースしてきた。すべての案件でディレクションを担当する薦田果聖氏は、次のようなプロセスで制作を進めているという。
「まずは、商材やキャンペーン、ストーリーにフィットするキャスティングから始めます。“この商材を好きだと言っている声優さんはいなかったか?”とか、“商品ターゲット層の20~30代女性から人気がある声優さんは?”と考えていきます」(薦田氏)
たとえば、ブランドメッセージが「癒やし」ならば、それを訴求するシナリオを書き、この内容に合う声優は誰で、どんなファン層が喜んでくれるだろうか? と掘り下げていくそうだ。
一方で企業から「この声優を起用したい」と依頼を受ける場合もある。その際は、まずは起用したい理由を聞いた上で、マーケティング課題に立ち戻り、「その訴求であれば、このキャスティングがいいですよ」とベストプランを提案するという。
注意をしたいのは、ファンダムが「流行や人気に乗っかっているのでは?」と捉えかねないケースだ。特に、「○○でヒットした声優さんだから、○○のキャラクターに寄せてやってほしい」という考えは、NGである。
「フォロワー数の多さや人気、知名度だけの起用は、ファンに見抜かれてしまいます」と高野氏。「声優が人気だからとか、ファンダムがあるからではなく、ブランド課題を解決するための最適解を考えるべき」と、手段が目的化してはならないとも強く指摘する。