デジタル時代だからこそ、オフライン広告は「拡散力」を秘めている
「過去数ヵ月で印象に残っている広告といえば?」と問われたとき、みなさんはどんな広告を思い出すでしょうか。
電通『2020年 日本の広告費』によれば、インターネット広告費は、社会のデジタル化加速が追い風となりプラス成長し続けている一方、4マスと呼ばれる新聞、雑誌、ラジオ、テレビやOOH等のオフラインメディアは軒並みマイナスと厳しい局面が続いています。特に、コロナ禍における外出自粛の影響は屋外広告へダイレクトに影響を及ぼし、初の緊急事態宣言が発令された2020年4月、5月は町中から広告が消えました。
しかし、私はこのようにインターネット広告の躍進が著しい昨今でも、OOHや新聞、雑誌を始めとするオフライン広告は「爆発力」と「拡散力」を秘めたメディアであると思っています。
実際、冒頭の「過去数ヵ月で印象に残っている広告といえば?」という問いに対して、インターネット広告ではなく、新聞広告や駅広告、看板などのオフライン広告をイメージされた方も多いのではないでしょうか。
実は、元々一方通行の情報発信で終わっていたオフライン広告ですが、WebやSNSとの連動により、今や“広告を直接見た人以上のリーチが狙えるメディア”となっています。すでに屋外広告の多くはインターネット上での拡散を前提にプランニングしているケースが多く、インターネット広告では起こりえない爆発的な広がり、拡散を狙った施策が多数見受けられるのです。
私はメディアプランナーという職業柄、日々SNS上で話題になったオフライン広告を現地に見に行き、写真を撮り、「なぜ話題になったのか」を考察しています。本稿では、2021年に入ってから私が撮影してきた広告の写真4,000枚の中から、2021年上半期に話題となったオフライン広告をピックアップ。その広告をさらに3分類し、それぞれの特徴や傾向について解説していきます。
ファンがファンを呼ぶ広告
1つ目は「ファンを巻き込む広告」です。ファンを巻き込む広告とは、言い換えれば俳優やアイドル、キャラクターを広告に起用することで、ファンによる拡散を狙った広告です。
たとえば、6月の最終34巻発売を記念して新宿で実施された、進撃の巨人広告が一例として挙げられます。
同広告では、駅構内のデジタルサイネージで国内2位(2021年9月現在、横幅では国内最大・弊社調べ)の「新宿ウォール456」の特性を活かし、作中に登場した100体を超える巨人を横並びに表示。涙を流す巨人を通してファンへの感謝を表現した印象的なムービーとなっていました。
広告が始まった6月7日の放映直後から多くの方が撮影に訪れ、写真や動画をSNSにアップする人が続出。時間によっては人だかりができるなど、ファンを中心に広がりを見せました。
また、渋谷駅にある「道玄坂ハッピーボード」では、永瀬廉さん(King & Prince)、道枝駿佑さん(関西ジャニーズJr./なにわ男子)を起用した手ピカジェルの広告が掲載され、二人のファンを中心に話題になりました。写真撮影に訪れるファンによる通行妨害を防ぐため、広告近くにはコーンが設置、警備員が張り付きで監視する少し異様な光景に…。
この事例で広告が掲出された「道玄坂ハッピーボード」は、渋谷109に近くにある大型の駅看板です。周辺利用者は若い女性が多く、渋谷駅構内でも比較的スペースが広いため、ファンによる写真撮影を目的とした広告が多数見られます。直近では、週刊少年ジャンプ掲載の人気作「呪術廻戦」の16巻発売広告が掲載され、その世界観を体感しようと多くのファンが訪れていました。中には、広告を一眼レフで写真に収める強者も。
駅広告などは、安全利用の観点から広告掲載することを事前告知出来ない場合が多いのですが、この手の広告はユーザーによる口コミやSNS投稿がきっかけで広く知られるケースが多いのが特徴です。