良質なサービス構築に必要なチーム内の「情報の透明性」
――すると、営業と開発の間に葛藤があると思いますが、どう解消しているのですか?
毎日、ケンカというか(笑)、議論はあります。現実的には、限られたリソースをどういった優先順位で振り分けるかを、プロジェクトマネージャーが双方の意見を踏まえて都度判断しています。
メディシス社が営業を、オプトデジタルがプロダクト開発を担うなかで大事にしているのは、「情報の透明性」です。計25人ほどのメンバーが日々Slackでやり取りするほか、週1回はZoomで全体ミーティングを実施し、営業状況の共有や、営業が得た薬局の声をエンジニアにフィードバックする会なども設けています。
たとえば営業が薬局で競合サービスの新機能の話を耳にしたら、我々もその優先順位を急ぎ高めることもあります。一般的な発注者と受注者の関係性だと、なかなかこのようにはいかないと思います。皆が当事者として対等に、多くの薬局、そして患者に使っていただくための優先順位を意識して話し合っています。
――顧客起点で新しい付加価値を提案するようなDXの実践は、極めて難しいと思います。それが実現できている理由を、どう捉えていますか?
やはり、業界全体の危機感が追い風に働いたと思います。実は、前述の法改正の原因には、医薬業界における薬局の立ち位置の変化が挙げられます。院内薬局とは別に調剤薬局があるのは、過去に一部の病院が利益目的で過剰に薬を出すような悪例があったからなのですが、昨今は薬を出すだけでは不十分と、厚労省や医師会などから薬局に対してより具体的な貢献を求める要請が高まっていました。調剤薬局の領域にドラッグストアが進出し、薬局専業の業態が押されていることも、危機感の一端です。
また、メディシス社として、BtoB事業の強化が命題だったこともあります。国が国民の医療費の抑制を掲げるなか、BtoCの薬局事業は縮小するのが避けられない面があります。メディシス社の最大の資産は、前述の加盟店6,400件を擁する医薬品ネットワークなので、そのBtoB事業をより進化させること、そのためのブランド力やシステム開発力が必要だと考えていました。だからこそ、明確な役割分担の下にオプトデジタルと協業することができ、同社との出会いを大きな価値につなげられたのではないかと思います。

患者起点でのDXが医療体験を変える
――他業界で、競合同士が手を取ってDXを進める場合に、何かアドバイスをいただけますか?
一つは、業界の慣習や固定観念にとらわれず、利害関係のない業界外の意見を積極的に取り入れることだと思います。もし外部の視点が得られなくても、同業界で多少なりともお付き合いがある企業があると思うので、腹を割って課題を話し合ってみると、協業の糸口が得られるのではないでしょうか。
もう一つは、スケールの大きい話をする人を活かすこと。当社の副社長の吉田は、日々の数字に責任を負いながらも夢のようなことばかり語るのですが(笑)、全体の布陣からすると、それがいい。現実路線の積み上げではなく「理想像は何か」からスタートすることは、顧客起点のサービス構築にとても大事だと思います。
――一生活者として、このサービスが広がった先に、医療関係の困りごとをシームレスに解決できる環境が整うことを期待したいです。今後どのように生活者の医療体験や生活を変えていきたいか、ビジョンをうかがえますか?
患者に使ってもらい、喜ばれると、勧める薬剤師も手応えがあり、その後のコミュニケーションにつながる。そんな好循環を起こしていきます。 大きな展望で言うと、医療だから仕方がない、とあきらめていることを取り払っていきたいです。なぜ問診票はいまだに紙で、薬局ごとに自分の住所を手書きするのか、このデジタル時代にはなはだ疑問です。医療の閉塞的なところをなくし、もっと生活に即した形になるのが理想です。そのために、薬局から、医療体験全体を改善していく道筋を開ければと考えています。既にスマホに入っているというLINEの強みを活かし、病院や介護施設などとも連携して、患者を緩やかに見守るつながりを築けたらと思います。