若年層への認知拡大につながった「燦鳥ノム」
日本の人口が減少局面にあることはご存じの通りだ。2020年以降は年単位で400~500万人ずつ減少。企業においては、何も対策をしなければ年間1%ずつ売り上げが減っていく試算になる。
こうした中で強化しなければならないのが、ファン創造への取り組みだ。特に酒類は約2割の顧客が売り上げの75%を占めているというデータもあり、ファン層のエンゲージメントが売り上げに大きく影響する。また、ファンは身近な人に商品を勧めてくれる貴重な存在でもある。
飲料だけでなく、食品や日用品も含めたあらゆる消費財の満足度調査によれば、どの消費財においても8割前後の消費者が「やや満足」または「満足」と回答する。これは、総じて製品のレベルが高く、製品だけでの差別化が困難になりつつあることを示している。
こうした市場環境の中でシェアを獲得するために、ファン創造とLTVの向上が極めて重要となるのだ。
「購買の前後を新規獲得ファネルとファン育成ファネルに分けると、これまでのサントリーは新規獲得ファネルが強かった。ですが、これからはファン育成ファネルを意識しながらデータを活用したコミュニケーションを展開していきます」(篠崎氏)

サントリーの取り組みとして、篠崎氏が紹介したのは「燦鳥ノム」というキャラクターを通したコミュニケーション施策だ。
2018年から始動した燦鳥ノムは、TwitterとYouTubeを中心に活動している。YouTubeでは200本以上の動画を投稿、Twitterではフォロワーと双方向のコミュニケーションを展開してきた。結果、YouTubeチャンネルの登録者数は約16万人、総再生回数は3,000万回、Twitterのフォロワーは約6.2万人と、多くのファンを獲得するに至っている。これはサントリーのイメージアップにも大いに貢献しているそうだ。
「もともと若年層に対しては認知の課題がありましたが、燦鳥ノムは若い方々にも好意を向けていただくきっかけになっています。実際にファンの方は、サントリーブランドの天然水を選んで購入いただいているようです」(篠崎氏)
ファン創造を循環させるデータ活用を
さて、サントリーの本来の強みは幅広いポートフォリオだ。コンビニやスーパーの店頭、自動販売機、飲食店のほかにもキャンペーンやイベントなど多くのリアル接点がある。これらに加え、いかにデジタル接点を作り出すかが、現在そして今後のテーマとなる。篠崎氏はこれから実現していきたいことについて、次のように語る。
「今までは製品軸でのアプローチだけでしたが、今後はいろいろな角度でサントリーに触れていただけるようにしていきたいと思います。文化・スポーツ・サステナビリティなど、サントリーの様々な活動に触れていただき、ファンになっていただくことを目指します」(篠崎氏)
サントリー流のデジタルマーケティングとして掲げるのは、デジタル活用による効率化や売り上げの向上と、ファンとの絆作りの循環である。
最後に篠崎氏は、サントリーの歴史を踏まえ、これからのデジタルマーケティングについて展望を述べた。
「サントリーの2代目社長・佐治敬三が残した言葉に、『商いの情(こころ)』という言葉があります。『情報』とは『こころ』に『報いる』こと。我々はお客様からのフィードバックである情報、つまりデータを用いてお客様に報いていかなければいけません。お客様への還元を念頭に、データ活用を考えていきたいと思います」(篠崎氏)

