PMFを実感したのは、意外にも2019年
プレイドの主力プロダクトは2015年3月より展開しているKARTEだ。“CX(顧客体験)プラットフォーム”を謳う同プロダクトでは独自のリアルタイム解析エンジンによって、Webサイトやアプリを訪問する顧客1人ひとりの行動や状態を可視化。データを基にその人の文脈を理解した上で、最適なコミュニケーションを実行するところまでをワンストップで支援する。2015年にWebサイト版からサービス提供をスタートし、2018年3月よりネイティブアプリにも対象範囲を拡大。同年12月からは顧客データや行動データなど事業者が持つさまざまなデータを統合し、より高度なアクションの実行を後押しするための「KARTE Datahub」の提供も始めた。
そのためには1人ひとりのユーザーを高い解像度で可視化し、そのデータを基に働きかけていく仕組みが欠かせない。KARTEが500社以上の企業に活用されているのも、まさにそのアクションを後押しするための機能が備わっているからだ。
サービスの用途も幅広く、ユーザーを可視化して事業を正しくしたい企業もいれば、データにまつわるエンジニアリングやデータサイエンス業務を効率化したい企業もいる。より足元で、サイトの顧客体験を改善してCVR向上を図るために使われることもある。
2015年のサービスローンチより事業を成長させ続け、2020年12月には東証マザーズにも上場したプレイド。意外にも思えるが、代表取締役CEOの倉橋健太氏がPMFを実感できるようになったのは比較的最近のこと。2019年だったという。
倉橋氏はPMFの手応えをつかむまでに、どのような道のりを辿ったのか。プレイドのPMFストーリーを紐解いていく。
「ユーザーデータの価値が伝わらない」悩んだPSF期
プレイドの創業は2011年10月。前職の楽天で楽天市場のWebディレクションやマーケティング、モバイル戦略の立案などに携わってきた倉橋氏が立ち上げた。創業初期はECのコンサルティングやグルメアプリなどを手がけていたが、倉橋氏にとって一つの転換点となったのが、現在同社の取締役CPOを務める柴山直樹氏と出会ったこと。もともと楽天時代からマーケターとしてアクセス解析ツールや分析ツールを触っていた倉橋氏と、大学院で神経科学や機械学習の研究をしていた柴山氏。2人がディスカッションの末に着想したのが、KARTEの原型だ。倉橋氏は最先端のテクノロジーを取り入れることで、自身がかつて苦労しながらやっていた業務を「もっと高度に、より簡単に」実現できる可能性があると気づいたという。
一方で、プロダクトの方向性に自信が持てるようになるまでには時間も要した。最初にぶつかったのがPMFの前段階にあたる「PSF(Problem Solution Fit)」の壁。つまり解決されていない課題と、その課題を解決する有効な手法を見つけるまでの工程だ。
倉橋氏たちが対象にしたのは明確に顕在化している課題ではなかったため、「自分たちが仮説として考えているような『潜在的な課題』は本当に存在しうるのか」を確かめる必要があった。ベンチャーキャピタルから最初の資金調達を行った2014年の5月ごろ、まさにそのための試行錯誤を繰り返していたという。
最初はKeynoteにサイトのキャプチャを貼り付け、アニメーションをつけてコンセプトを説明するところからのスタート。初期のKARTEは、エンドユーザーのデータを裏側でリアルタイム解析しつつも、顧客が直接目にするインターフェース上ではチャートやグラフを用いてその状況をわかりやすく表現するようにしていた。
倉橋氏いわく、それは「既存のアクセス解析ツールと同じようなUI」で、そのほうが顧客にとって使いやすいと考え、採用していたという。しかし、試作品を見た顧客の反応は芳しくなく「『裏側でユーザーのデータを解析している』という価値が伝わっていなかった」という。
「私たち自身はユーザーデータが企業にとって大きな価値になると信じている一方で、企業からはNOと言われる。潜在的な課題があるはずと思いながらも、それを確認できていない状態でした」(倉橋氏)
倉橋氏たちはプロトタイプをチューニングしながら企業にヒアリングを繰り返していたが、ある時を境に企業の反応が180度変わった。