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MarkeZine Day 2025 Retail

僕たちのPMFの話をしようか

「狙った通りの反応で結んだ契約か?」契約数で判断せず顧客満足の内実を突き詰めた、プレイドのPMF秘話

1つの方針転換が奏功し、解約率が低下

 2019年から2020年にかけて、顧客の活用状態やプロダクトへのフィードバックに徹底的に向き合い続けバケツの穴をふさぐための方策を考えた倉橋氏。ここで重要な気づきを得る。

 「KARTEはいろいろな使い方ができる分、シンプルなプロダクトではないので、プロダクトだけを提供していてもダメなのだという事実を、改めて突きつけられました。私たちのプロダクトは、プロダクトとサービスの両面があって成立する。だからこそ顧客の活用状況をつぶさに見て、丁寧なコミュニケーションを取っていかなければならないと痛感したんです」(倉橋氏)

 リソースが限られるスタートアップにおいて、“会社の重心”をどこに置くかは重要な意思決定だ。PMFを実感する前の倉橋氏たちは「とにかく新しいお客様にプロダクトをデリバリーしていくことを大事にしていた」。一方カスタマーサクセスチームは、どちらかといえば「何か問題が起きた時にサポートする」という動き方が中心であり、顧客の成功に積極的にコミットする体制にはなっていなかった。

 また、もともとプレイドではプロダクトに重心を置くべく、全社の人員がプロダクトサイドとビジネスサイドでおおよそ半数ずつになるように意識してきたという。そのため2019年まではビジネスサイドの採用でアクセルを踏まず、ある意味“採用を抑制”しながらバランスを保ってきた。たとえばセールスにおいても、体制を強化して「人力で売る」という選択肢を避け、「プロダクトカンパニー」として強固な基盤を築くための組織作りにこだわっていたのだ。

 しかし前述の気づきを基に、倉橋氏は意図的にカスタマーサクセスの体制を手厚くするという判断を下す。これからさらにプロダクトに注力していくためにも、一度会社の重心を変えることを決めたのだ。この意思決定がうまく機能し、KARTEの解約率は劇的に下がっていった。

満足してもらっている=PMFとは言い切れない

 インタビューの終盤、倉橋氏に「もしもう一度最初からやり直すとしたら、何を変えるか」を尋ねてみた。

 倉橋氏はまったく同じ事業であれば経験を踏まえてショートカットする道を選ぶものの、異なる事業であれば最適な方法も異なるため、想像できるやり方をまずは試してみて、結果が伴わなければその選択肢を捨てるというやり方を選ぶという。

 「やってみないことには、正しいかどうかはわかりません。だからこそ、選択肢を一つずつ潰していくというこのアプローチだけは、確実に真であると思います」(倉橋氏)

 一方で“やらないこと”があるとすれば、サービスのプライステーブル(料金プランの種類)を増やしすぎないことだという。KARTEではローンチ時に4種類の料金モデルを設けていたが、従量課金型のモデルでは、結果的に顧客の利用を制限してしまうことになった。特に初期の段階ではプロダクトが未成熟であることが多く、ユーザーにたくさん使ってもらうことによって磨かれていく側面もある。だからこそ、「プロダクトを磨き込むために、十分に使ってもらえるようなプライシング設定をする」ことが大切だ。

 最後にPMFのポイントを尋ねたところ、「目の前の数字に騙されないこと」を挙げてくれた。

 「契約が取れたり、顧客からお金を払っていただけたりすることは本当に嬉しいですし、最高の体験です。ただその感情を抜きにして、顧客がなぜお金を払ってくださるのか、その意思決定が本当に心から納得できる結果なのか、どこかに違和感がないかを冷静に考える必要があります。

 汎用的なプロダクトであるほど、顧客の満足ポイントも分散します。時として、顧客の満足している部分が、自分たちが提供しようとしているものとズレている時があるのです。『満足してもらっているから直ちにPMF』と捉えてはダメで、自分たちが見据えている未来を踏まえて、もう少し粘らなければならないこともあります。

 顧客の反応に確かな自信を持てるか。自分が狙った通りの反応を持って、その契約が行われたのか。その点が最も重要だと考えています」(倉橋氏)

プレイドのPMFストーリー(再掲)
プレイドのPMFストーリー(再掲)

取材後記

 今回、倉橋CEOにKARTEの歴史を伺うことができ、改めて参考になったのがPMFに向かう際のお客様との向き合い方です。

 整理すると、まず、倉橋CEOの事業開始前のご経験や、KARTEがローンチされてからのお客様との向き合い方を通して顧客課題が手に取る様に理解できていた。つまり、「顧客仮説」に対する確信がありました。顧客が何に困っていて、どういった価値を求めているのかは明確ですが、その価値をどの様なプロダクトで表現してお客様に届けるか、その手法論にPMFの試行錯誤がありました。

 KARTEの場合はUIの変更が解決策でしたが、CSを手厚くしてビジネスモデルをマイナーチェンジしたCommuneさん(第7回)や、運用コンサルを強化したXICAさん(第8回)など、これまで本連載で取材してきた会社も、価値の届け方については様々に試行錯誤し、必ずしもセオリー通りではない方法でPMFを達成してきました。

 求める価値をお客様自身が言語化できていなかったり、新しい解決策を提示する場合は、プロダクトやサービスの形に拘らず、幅広く、かつクリエイティブにお客様に提案していくことが重要です。フィードバックを素直に受け取り、実直に対応し続けるだけでは、お客様の想像を超えるプロダクトを作ることはできないということです。(SPROUND 田中氏)

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チームPMF(チームピーエムエフ)

才流 代表取締役 栗原康太氏、DNX Ventures Venture Advisor / EIR 稲田雅彦氏、SPROUND Community Manager/DNX Ventures Investment VP 田中佑馬氏による取材チーム。BtoBスタートアップの手触り感をもった"PMFストーリー"を伝えるべ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

大崎 真澄(オオサキ マスミ)

ライター。大学在学中&休学中に複数のIT系スタートアップでインターンを経験後、フリーランスとして独立。DIAMOND SIGNALに関わる以前には「TechCrunch Japan」などでスタートアップ企業のプロダクトや資金調達を中心としたインタビュー・執筆活動を行っていた。4年前から長野県在住でフルリモートワーク...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/01/06 08:00 https://markezine.jp/article/detail/37433

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