「得られるものの最大化」だけでなく、「失うものの最小化」も重要
ステップ2は変化の方向性の決定だ。これからアプローチしていきたい若年層と、長年愛用している顧客、双方の声を聞いたうえで、何を残して、何を変えるのかを考えていった。
ポイントは、得られるものの最大化を第1優先にすること。かつ失うものの最小化も重視し、バランスを見ながら進めることだ。
FASIOの場合、絶対に変えてはいけない箇所はラスティング処方だった。愛用者が一番重視している部分であり、ラスティング処方をないがしろにしてしまうとファンを裏切ることになってしまう。

一方で、20代前半以下の若年層をメインターゲットにしていくうえでは、付加価値を加える必要があった。ユーザー調査の中で「レジに持って行くまでにテンションが下がる」という話もあった通り、現状のデザインでは満足してもらえていないのだ。
「ユーザー調査を重ねていくと、若年層にとっては購入判断を左右するほどブランドのデザインは重要である一方で、愛用いただいている40代のお客さまは『中身が気に入ってるから、外見はそんなに気にしない』というお話をいただいていたんです。それなら、デザイン性は若年層に響く方向に合わせた方がいいと考えました。今のお客さまが求める落ちにくさはこれからも担保しつつ、自分になじむ優しい色味や好んで使いたくなるデザインという付加価値を付与していきました」(伊藤氏)

20代を中心にリブランディングチームを結成
ステップ3は方向性の具体化だ。ブランドのコピーやパッケージデザイン、売り場の設計などに落とし込んでいく。
コーセーでは元々、商品デザイン、売り場、プロモーション、宣伝、PR、コピーなど各ファンクションで部門が分かれている。商品デザインが完成したらTOPに決裁を取ったうえで売り場担当者に共有し、売り場が完成したらTOPに決裁を取ってプロモーション担当者に共有……というように、合間に決裁をはさみながらリレー形式でブランドを形作っていく手法が取られていた。
しかしFASIOのリブランディングでは、従来と大きく異なる進行方法が採用された。
「ユーザー調査で浮き彫りになったお客さまの意見が社内で衝撃を生んだこともあり、お客さまに近い20代を中心にブランドチーム一丸となってリブランディングを成功させなさいという大きな命題をいただきました」(伊藤氏)
そのため伊藤氏は、20代を中心としたプロジェクトチームを結成。商品デザインや売り場作り、プロモーションなどすべてをプロジェクトチームが同時並行で進めることとなった。
20代を中心に各部門の担当者が集結し、意見を交わす場を設けたのは、多方面で良い影響をもたらした。最大のメリットは、若手の意見が出てきやすい状態が構築できた点だ。結果、商品デザインの観点が売り場にも反映され「よりブランドの世界観を強固にできた」と伊藤氏は語った。