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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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特集:データ活用の新常識

データがどのように活用されているかの整理は急務 そして求められるビジョンとガバナンス

データのやり取りに欠かせない自律性と互恵性とは

――では、データの保護と活用のそれぞれでマーケターが意識すべきことはなんでしょうか。

太田:ガバナンスの構築ができていればそこまで問題にならないと思いますが、これから出てくるポストCookieや法規制に対応したあらゆるマーケティングソリューションを、きちんと理解して導入検討することが重要だと思います。

 様々な支援企業から「こんなソリューションが出ました」「Cookieを使わずともターゲティングができます」と提案があると思います。しかし「なぜターゲティングができるのか」をきちんと理解していないと後で痛い目を見る可能性があります。

 もちろんターゲティングが悪いというわけではなく、ターゲティングが活用できないと利用者に価値を提供しきれない部分もあるので、使えるものは使うべきですが仕組みは最低限理解し、法的に必要な措置、プライバシーを尊重するための措置を検討すべきだと思います。

伊藤:また、収集データの最小化(データミニマイゼーション)について考えることも重要で、結果的にデータごとの収集目的を明確にすることに寄与します。そのデータはサービスの提供に必須なのか、必須ではないがサービスの質を向上させるために必要なのか、データを収集してどのように便益として生活者に返していくのかを考えることもマーケターの仕事だと思います。しかし、それを放棄してとりあえず集めておこうと様々なデータを集めるのは非常に危険です。

――確かに、通販サイトを利用していると「この項目何に使うんだろう?」と思いつつ入力してしまっているときがあります。そのデータを集める意図が利用者側に見えないのは確かに良くないですね。

伊藤:企業と個人によるデータのやり取りを考える上で欠かせないのが自律性と互恵性です。自律性はきちんと契約の内容を理解した上で同意しているかどうか。そして互恵性は、個人と企業お互いの提供物が釣り合っているかどうかということを指します。

 現在の多くのWebサービスでは、企業が一方的に提示した条件に同意しなければサービスを利用することができず、個人にとっては他に選択肢がない不自由な附合契約になっているため、この自律性と互恵性が担保できているとは言えない状況です。

 特に互恵性を達成しようとする際に、サービスの提供に不必要なデータまで収集しないということは言わずもがなですが、分析の結果をもとに商品レコメンドをしていたとしても、それにどんなデータがどのように使われているのか利用者にとってはわかりにくいということが多いかと思います。この企業と利用者の情報の非対称性を解消することで、それぞれが提供するサービスとデータの互恵性を保つことができるようになります。

太田:伊藤さんの自律性と互恵性の話を私なりに考えると、「こういうデータを収集して、このように活用しています」と企業が生活者に説明したときに「もっと提供したい」「やめてほしい」のバランスがどうなるかを意識することが自律性と互恵性の担保につながると思います。

 私はよくGoogleマップを利用しますが、自分の位置をGoogleマップ上で表示するために、もちろん位置情報を提供しています。Googleはこの位置情報を広告にも利用はしていますが、道の混雑状況を表示するための元データとしても利用しています。渋滞情報が正確になるなら喜んで提供したいなと私は思いますし、そう思う方も多いのではないでしょうか。

 一方で、たとえばタクシーの配車アプリも利用する際に自分の位置を知らせるために位置情報を提供する必要はあるので、提供はしますが、その位置情報を実はトラッキングにも使われていて、どこで降りてどの店に行ったかという情報が収集されているとしたらそんな使い方をされたくないと思う人が多いのではないでしょうか。実際に炎上してしまったタクシーアプリがありますが、そのデータの利用目的を生活者が知った際に、納得できるものなのか、そうではないのか、その境界線を探ることが重要です。

伊藤:確かに私もGoogleマップを利用する際に、積極的に電車やバスの混み具合の情報を提供するようにしています。それが統計処理された上で可視化されているため、自分が移動する際にも役立つことがわかりやすいからです。

 実はこの互恵性を考えることは、インセンティブ設計にも役立ちます。先ほどの思考放棄の話にもつながりますが、ユーザーからのデータ提供のインセンティブとして金銭的対価を真っ先に考えてしまう方も多いのではないでしょうか。それは最終手段であるべきで、本来はそのデータを活用してどのようにサービスなどの便益としてユーザーに還元するのかを第一に考えなければなりません。

 最近では、個人が能動的に企業へ提供するデータを指す「ゼロパーティデータ」も注目されていますが、まさしく、個人にとって互恵性が明確になっているからこそ、積極的に個人からデータを提供してもらえる関係になります。太田さんが語るように、サービスのメリットがデータの活用によって生まれていることをどのように伝えことができるのか、サービスのユーザーエクスペリエンス(UX)を考える際に合わせて意識するべきポイントとなります。

マーケターのスキルセットにデータ保護・活用が入る時代に

――では、最後に今回のお話のまとめと、今後のデータ活用に関する予測を教えてください。

太田:まず、冒頭に話しましたが今後の法改正やデータ規制に備えるためにも、今自社がどういった情報を取得しどのように活用しているのか、その仕組みを把握しましょう。そして、「現状の使い方を一般の人はどのように思うか?」を社内外のステークホルダーを交えながら議論し、整理する場を用意することが重要です。

 データ保護・活用に関する問題でニュースになるのは大企業がほとんどですが、実は中小企業でもデータに関する問題がきっかけで倒産するといったケースも存在するくらい、どの企業にも起こりうる問題なのです。

伊藤:今後はマーケターがデータの保護について理解し自社のユーザーへの便益還元を念頭にした活用のあり方まで考えることが当たり前になっていくと考えています。これまでのツールを使いこなすスキルや適切なKPIを設定し回していくという基本とともに、テクノロジーの仕組みを理解するのはもちろん、法律的な部分も一定程度理解しておく。そして、データ保護・活用がどのように行われているかを生活者にわかりやすく伝えていくことが求められるのではないでしょうか。

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この記事の著者

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/11/09 18:52 https://markezine.jp/article/detail/37531

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