【ディノス】謙虚な姿勢を持つ企業にデータが集まる時代に
データ取得の対価を考える
――個人情報保護法の改正施行、Cookie規制などデータ活用に関する潮流をどう受け止めていますか。
サードパーティCookieが個人情報保護の観点から議題に上がることは今に始まったことではなく、遅かれ早かれ当局からのメスが入ることは既定路線でした。いよいよかという印象です。またファーストパーティデータ、セカンドパーティデータの利用についても同様とする向きもあり、本質的にはCookie利用の是非というよりも、顧客と対等な関係で個人情報取得に対する同意形成を行うことが求められていると認識しています。
これまで、データ取得が容易であることがWeb上でビジネス展開することの大きな利点の一つとして考えられてきました。これをテクニック論として捉えるのではなく、データ取得の対価として企業が顧客に何を提供できるのか、よりよい顧客との関係を構築するために取得したデータを顧客サービスにいかに昇華させるべきなのかについて考える必要があると思います。
思えば当たり前の話で、たとえば店舗接客であっても顧客が望んでいないタイミングや内容の無理な接客は購買体験を棄損します。それと同様かそれ以上に、Web上では顧客体験の最良化に向けて真摯に取り組まなければなりませんし、そうした謙虚な姿勢を持つ企業に顧客データが集まる時代になるのではないでしょうか。
データで見える顧客の解像度を高める
――今後データを活用したマーケティングを推進する上で、大事にすべきと考える点はなんでしょうか。
データ活用を推進する上で重要なことは、データの粒度とボリュームからなるデータ精度の向上です。一般的な企業単体ではビッグデータと呼べるほどのボリュームを収集しビジネスに利活用することは難しい。となれば残された道はデータ粒度を磨くこと。つまりはデータから見える顧客の解像度を徹底的に上げることにあります。
そのためにはアノニマスな状態のデータをいくら集めても不十分であり、顧客ID(またはそれに準ずるもの)に紐づいたデータが必要になります。そこにはデモグラフィックなデータだけではなく、Webサイトやアプリなどのオンラインとリアルのオフラインがつながった状態の行動データ、ライフステージや環境で刻々と変化する趣味趣向に関する情報、直近で必要としている商品やサービスに関する情報、様々な粒度のデータが必要になります。
そしてそれらの個人情報を顧客から預かるためには、信頼に基づく関係性構築と適切な価値交換の設計が前提となります。顧客が企業に対して預ける情報を自ら取捨選択できる環境と、それによって享受する対価を理解し、また企業がしっかりとした説明や制度設計を行うことが重要になると考えています。

株式会社DINOS CORPORATIONCECO(Chiefe-Commerce Officer)石川森生氏
SBIホールディングス、ファッション通販サイト・マガシークを経て、TUKURUを創業。2016年より、DINOS CORPORATIONでCECOとして、既存の枠組みを超えるサスティナブルなECビジネス構築を実践。
【三井住友カード】環境変化をチャンスと捉え、マーケティングのレベルアップを
自社の商品サービス、ユーザーへの深い理解が問われる
――個人情報保護法の改正施行、Cookie規制などデータ活用に関する潮流をどう受け止めていますか。
危機感を感じつつ、チャンスであるとも思っています。危機感を抱いている点は、サードパーティCookieを使ったターゲティング・リターゲティング施策の配信精度・ボリュームの低下により、コンバージョン数の低下や獲得単価の高騰といった直接的な影響が発生することです。
一方でチャンスだと思っている点は、自社のマーケティングを成長させる機会が得られるという点です。従来実施してきたターゲティング配信ができなくなるため、クリエイティブやコンテンツは誰が見ても伝わるように改良する必要が発生します。クリエイティブの重要度が一層高まりますが、これは自社の商品サービス、ユーザーを深く理解していないと実現できません。
ですから、環境の変化への対応は、結果として自社のマーケティングのレベルアップにつながるのではないかと考えています。
基本的なことを当たり前に、積極的にやることが重要になってくる
――今後データを活用したマーケティングを推進する上で、大事にすべきと考える点はなんでしょうか。
Cookie規制により、自社データの活用やそもそもCookieなどのデータを使わない新しい取り組みが増えております。そういった動きの中で私が大切だと感じているのは、「情報収集と啓蒙活動」「データの蓄積」の2点です。
「情報収集と啓蒙活動」は基本的なことですし、自然体でできている方も多いのですが、アンテナを張り情報を常にアップデートし、勉強会の実施などの社内向けの発信まで含めて定期的に行うことが大切だと考えています。アップデートする情報は、代理店やメディアから得る受け身的なものではなく、自ら率先して取りに行くことがポイントです。
次に「データの蓄積」です。これもシンプルですが、できることなら検討中の施策は実施し、そのデータを蓄えておきましょうということです。実績は他社事例では得られない生の情報となり貴重です。試せるのであれば小規模でも実施しておくとよいと思います。当然、施策の実施には社内決裁が必要となると思いますが、先述の啓蒙活動ができていれば社内で施策の重要性を理解してもらいやすく、実施までスムーズに進められるのではないでしょうか。

三井住友カード株式会社 マーケティング本部 マーケティング統括部 部長代理 久保拓也氏
大学卒業後、大手家電量販チェーンに新卒入社。その後デジタルマーケティング支援会社への転職を経て、現在は三井住友カード株式会社にて会員獲得推進を主目的とした認知から獲得フルファネルでのデジタルマーケティング活動に従事。